全編(音声による)セリフなし、登場人物全員が手話だけで話す、という斬新な設定を使って、腐敗しきった寄宿学校の不良学生たちの日常を描いた衝撃作。76点(100点満点)
映画ザ・トライブ
セルゲイは、族(トライブ)による悪の組織が支配する序列の厳しいろうあ者のみが通う寄宿学校に入学。そこは犯罪や売春の温床となっていた。セルゲイは、何度か犯罪に手を貸すうちに組織内での地位を確立していく。次第に彼は族のリーダーの愛人の一人で、売春をしているアナに夢中になり始め……。
シネマトゥディより
映画ザ・トライブの感想
ミロスラヴ・スラボシュピツキー監督によるウクライナ映画。
聾唖の人をテーマにした映画というと、これまでは言葉を越えた愛や感動を描く物語がほとんどでした。しかしこの映画には心優しい障害者は出てきません。
むしろ暴力、売春、賄賂といった不穏な世界で生活している若者ばかりで、そこには優しさや思いやりといったポジティブな要素がほとんど存在しません。あるのは不良グループへの貢献度によって決まるヒエラルキー、そして裏切りだけ。
しかしそんな中でも新米のセルゲイは完全に悪に染まっておらず、トラックの運転手たちに売春をしている少女アナに恋心を抱きます。
セルゲイは売春の斡旋を手伝うようになると、自らもアナに体を要求し、それを機に二人は密会を重ねます。セルゲイはたちまち本気になってしまい、イタリア行きを目論むアナを必死で阻止しようと暴走する、というのがおおよそのあらすじです。
手話だけなので最初はストーリーが理解できるのかどうか不安でした。もちろん会話は理解できませんが、不思議と話の流れは分かるもので、会話がなくても十分に恐怖と興奮を与える斬新な手法がなんともいえませんでした。
全シーンを手持ちで撮影したカメラワークも予想不可能なストーリーにさらなる緊張感を与えていましたね。
監督の故意によるものなのか暴力シーンはかなり滑稽でした。殴る蹴るのシーンでは「暴力を振るう真似」をしているだけで動きがコミカルですらあります。ベッドシーンも若者の男女をちゃんと全裸にさせているわりには振付けのような動きに終始します。
セルゲイとアナによる絡みのシーンが話題になったようでしたが、お互いが顔をカクカク上下させているだけで、ちゃんとやっていないのがバレバレです。あの辺は「アデル、ブルーは熱い色」を見習って欲しいですね。
暴力と性描写にリアリティーさえあればもっと完成度が高かったはずです。ただ、この映画に関してはそれをしなかったのはあえて視聴者に与えるショックを軽減したような印象も受けました。暴力は特にラストの結末に一番えぐい衝撃を温存したかのような感じもしましたが、実際はどうなんでしょうか。
それに対し、リアリティーがありすぎて目を覆いたくなったシーンが中絶手術の下りです。
手術といってもモグリの医者が麻酔もせずに手持ちの器具だけで行う強引なもので、一昔前まであるいは現在でも貧しい国の医者が実際にやっていそうな恐ろしさがありました。あのシーンだけでも結構な時間を割いていたので監督としてもカットしたくないという意図があったはずです。
そういえば「メビウス」のようにセリフなしの映画というのはこれまでもあったけれど全ての会話が手話というのは史上初めての試みだと言われています。ただ、この映画がすごいのは手話の部分でなく、手話を理解できない人にもしっかりと伝えるべき部分を伝えられているという監督の表現力です。
この映画なら手話の部分を、この世に存在しない「宇宙語」にしても伝わるはずです。それぐらいそれぞれのシーンの描写がしっかりとしていましたね。監督はミロスラヴ・スラボシュピツキーというウクライナの監督らしいんですが、次に彼がどんな映画を撮るのか今から楽しみです。
コメント
この映画みたんですけどあなたの言う通りです
しかし暴力シーンはわざとかなという印象を受けました
暴力シーンがリアルだと手話という手法がリアルじゃなくなる気がします
なんか口じゃ説明できないけど
でもやっぱりセックスシーンはちゃんとやったほうがよかったですね笑
Remoさん
コメントありがとうございます。あの暴力シーンには笑ってしまいました。なんか可愛かったです。セックスシーンもカクカク動くだけで間抜けでしたね。