アカデミー賞外国語映画部門ノミネート作品。自分のルーツを巡るロードムービーで、スローなテンポながら、しっかり起承転結を付けている大人の人間ドラマ。
少女を通してアイデンティティー、宗教、生き方を問う真面目な映画です。65点(100点満点)
イーダのあらすじ
1962年のポーランド。戦争孤児として修道院で育ったアンナ(アガタ・チュシェブホフスカ)は、院長におばの存在を知らされる。おばのヴァンダ(アガタ・クレシャ)はアンナがユダヤ人であり、本名はイーダであると告白。イーダは両親の墓を訪れたいと言うが、墓はおろか遺体がどこにあったのかさえもわからない。そこでヴァンダは、イ1962年のポーランド。戦争孤児として修道院で育ったアンナ(アガタ・チュシェブホフスカ)は、院長におばの存在を知らされる。おばのヴァンダ(アガタ・クレシャ)はアンナがユダヤ人であり、本名はイーダであると告白。イーダは両親の墓を訪れたいと言うが、墓はおろか遺体がどこにあったのかさえもわからない。そこでヴァンダは、イーダの両親が生活していた家を訪れてみようと提案し……。
シネマトゥディより
イーダの感想
「Cold War あの歌、2つの心」のパヴェウ・パヴリコフスキ監督による芸術路線白黒映画。ポーランドが舞台になっているんですが、ポーランドの雰囲気なのかそれとも監督の手法なのかとにかく終始暗くてマジです。
息苦しささえあります。ユーモアはゼロに近いです。テーマも重く、負のオーラと、ネガティブな臭いで充満しています。しかしそれでもしっかり作られていて、予想できない展開を用意してくれているので見ごたえはそれなりにありました。
修道院で育ったアンナはある日突然叔母さんが生存していることを告げられます。叔母さんに会うと、自分とは正反対の性格で、タバコは吸うは、酒は浴びるように飲むは、すぐに男を連れ込むは、まるで規律のないところに抵抗を覚えます。さらにその叔母さんから自分がユダヤ人であり、イーダという名前であることを教えられます。
アンナ(イーダ)は昔の写真を見るうちに自分の出生に興味を持ち、戦時中に亡くなった家族の墓や昔の家を訪れることにします。そこから酔っ払いの叔母さんとアンナ(イーダ)の自分のルーツを探す旅がスタートする、というのがあらすじです。
テーマはずばり「ルーツVS信仰」です。自分のユダヤ人としての血のほうが大事なのか。それとも小さい頃から叩き込まれてきたキリスト教の教えの方が強いのか。旅をする間にアンナのそれまでのアイデンティティーが揺らいでいきます。
もともと修道院から出たことがないので、アンナにとっては全てが新鮮で刺激的で、外の世界に触れたことで自分が信じ続けてきた信仰にまで疑問を持ち始める、という展開は面白かったです。
ただ、さすがに白黒映画で、スローで、静かだと途中で眠くなりますね。また、カメラは常に遠めに設置してあるために登場人物の表情がほとんど見えないのが残念でした。
素人俳優や無名のB級俳優を使う場合には最高の手法ですが、もうちょっと表情の変化が見たかったですね。ただでさえ無表情なユダヤ人という設定だったので人間味に欠け、登場人物たちに愛着は感じませんでした。
唯一アンナ(イーダ)に人間味を感じたのは彼女が酒を飲み、タバコを吸い、ドレスを着て、バンドマンの男と踊り、ベッドインした一連の”不良行為”のシーンだけでしたね。ベッドの上でバンドマンとピロートークをしているときにこんなやり取りがありました。
「海辺の町で演奏するから、一緒に来ない? 俺の演奏を聞いて、それからビーチを散歩しようよ」
「それから?」
「それから犬を飼って、結婚して、子供を生んで、家を建てるんだよ」
「それから?」
「それから普通の人生を送るんだよ」
冷静に考えると、初めての相手にベッドの上でここまで言わすアンナ(イーダ)はかなりタチの悪い女です。男は嘘なのか、本心でそう思っているのか、いずれにしろあの時点ですかさず「結婚」まで口にできるところはすごいですね。尊敬します。
しかしそんな男の誠意もアンナ(イーダ)の心には響かなかったようです。おそらく彼女は結婚して、子供を生んで、普通の人生を送るということに意義を見出せなかったのでしょう。そこに神の存在がなければ結局自分には何もないのと同じなんじゃないか、という虚無感を感じたのでしょう。
するとアンナ(イーダ)は男をベッドに残したまま修道服を着て家を出ていってしまいます。ただ、あれは完全にマナー違反ですね。やり逃げにもほどがあります。せめて男に自分の決意を伝えてから、ちゃんと別れの挨拶して行かないと、それで神の道へ進むとか言われても、って感じです。
「結婚」まで言わせておいて、お前は逃げるって。すげえなおい。そんな奴が道徳語るなよって思いましたね。男だって傷つくんだぞ、この野郎。
まあ、そこはストーリー上の問題なので仕方ないとして、全体的にも、ラストのオチも自然でしたね。自分が信じ込んできた宗教を一度疑ってみて、また再認識する、といった流れは共感が持てました。
宗教家はアンナ(イーダ)のように一度他の宗教に触れてみて、自分の信仰を離れてみるのがいいかもしれないですね。
客観的に自分が信じてきたことを見て、それでもやっぱり自分の神が大事だというなら、それがその人にとって真実なんでしょう。キリスト一本槍で推している「神は死んだのか」とは雲泥の差のある深い作品でした。
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