貧困層の労働階級の男女にスポットライトを当て、それぞれの根強い鬱憤と苦しみを描く人間ドラマ。45点(100点満点)
罪の手ざわりのあらすじ
山西省の村で共同所有していた炭鉱で、利益を吸い上げられてきた炭鉱作業員(チアン・ウー)。重慶の妻子に出稼ぎとうそをつき、仕送りを送る強盗(ワン・バオチャン)。
かなわぬ恋を続けて年を重ねきた湖北省の女(チャオ・タオ)。職を転々とし、ナイトクラブのホステスとの恋に思い悩む男(ルオ・ランシャン)。虐げられてきた彼らはついに事件を起こしてしまう。
シネマトゥディより
読者のRockさんのリクエストです。ありがとうございました。
罪の手ざわりの感想
このブログで90点台を叩きだした名作「長江哀歌(エレジー)」や「帰れない二人」、「山河ノスタルジア」などでお馴染みのジャ・ジャンクー監督による群像劇。
中国の理不尽な社会が垣間見えるエピソードが興味深い一方で、面白いかというとそうでもない普通の作品ですね。
「長江哀歌(エレジー)」ではダム建設によって水没した村で生活する貧困層の人々を取り上げていましたが、今回は場所も、人にもバリエーションが加わり、主人公もその都度変わっていく、難易度の高いドラマに挑戦していました。
群像劇というのはストーリー構成で良し悪しが二分されてしまうジャンルで、多数の登場人物がどのようにストーリーの中で交差していくかがカギとなってきます。
ダメなのは「360(原題)」のようにただ大勢の登場人物がでてきて、無理やり接点を作らせるタイプの映画で、それに対し傑作は「バベル」のように交わらないはずの人々が絶妙につながっている過程を描いた作品でしょう。
それに関していえば、この映画はほとんど登場人物同士のつながりはありませんでした。オムニバス映画といってもいいかもしれません。
全体的にどのエピソードもどうにもならないもどかしさが込み上げてくるジャ・ジャンクー監督らしい演出が冴えていました。
しかしひとつひとつのストーリーにインパクトがあるかというと、面白いのもあればそうでもないのもあるといった感じで、殺人のシーンなどはちょっとやりすぎたかな、という印象もあります。ただ中国を決して美しく描かず、社会問題を次々と取り上げていくのは大変なことだろうし、いろいろな圧力の中、やっと完成させたんだろうと想像します。
僕的には終盤に出てくる若者シャオホイが娯楽城(ゴールデンエイジ)と呼ばれるホテルで働くシーンが面白かったです。あそこだけ妙にビジュアル系俳優たちを登場させていて、これまでのエピソードとのコントラストが強烈で、金持ち観光地の雰囲気といかがわしさが上手く表現されていました。
お客様のニーズを満足させるためか、ホテル内にはコスプレ嬢まで揃えていて、電車の部屋まで用意してありました。日本のイメクラのアイデアをパクった感が笑えます。あんなところ中国に本当にあるんですかね。
余談ですが、この映画はどうやら製作や配給にオフィス北野が協力しているようです。もしかしたら北野武監督もジャ・ジャンクー監督のことを認めているのかもしれませんね。次はぜひ日中合作で二人のコラボ作品が見てみたいです。この映画はそうでもなかったけれど、次を期待させるような要素がジャ・ジャンクー監督にはあります。監督はそうでなくっちゃね。
コメント
日本でも先週から上映され、今日観て来ました。私も4つめのエピソードに惹かれました。クレジットに北野オフィスが協力しているのは 前作品からも知っていたのですが、ちょっと気になる事があったので検索かけてみたら、ジャ・ジャンクー監督が武の映画にある独特の暴力性のファンだったとありました。交流があるみたいですね。思い出してみたら、武の『キッズ・リターンズ』の男子二人のラストの台詞は『俺たち、おわっちゃったのかなー』に対して『まだ、始まってもいねーよ』でした。ジャ・ジャンクーの『世界』のラストでは、心中とも事故死ともわからない男女の死体が『俺たち、死んじゃったの?』『いいえ、新しい始まりよ』と囁いていました。なのでこれは、ジャ・ジャンクーの武へのリスペクトだったのではないでしょうか。
ISHIMAMIさん
コメントありがとうございます。やはりファンだったんですか、なんか影響を受けているような感じも見られましたね。二人での合作が見れたらいいんですけど。