「海街diary」、「空気人形」、「海よりもまだ深く」、「三度目の殺人」、「万引き家族」、「真実」などでお馴染みの日本一安定感のある監督、是枝裕和による家族ドラマ。
病院のミスで取り換えられた子供を巡っての家族のつながりと葛藤を描く人間ドラマで相変わらずの映像美とリアルな演技を武器に一定のレベルをしっかりクリアしている作品です。74点(100点満点)
そして父になるのあらすじ
申し分のない学歴や仕事、良き家庭を、自分の力で勝ち取ってきた良多(福山雅治)。順風満帆な人生を歩んできたが、ある日、6年間大切に育ててきた息子が 病院内で他人の子どもと取り違えられていたことが判明する。血縁か、これまで過ごしてきた時間かという葛藤の中で、それぞれの家族が苦悩し……
シネマトゥディより
そして父になるの感想
テーマ的には「もうひとりの息子」と極似しています。二つ共いい映画だけに同じタイミングで日本公開になるのはお互いにもったいないですね。
「もうひとりの息子」が民族を超えた問題であるだけに複雑な内容なのに対し、この映画は日本人同士の家族の間で起きた分だけ、テーマはシンプルになっています。
2人の子供が病院のミスで取りかえられた、というストーリーを描くとき二つの家族を対比することから始めるのはどちらの監督も同じでした。
対比の道具として使われるのはやはり最も分かりやすい貧富の差で、是枝裕和監督は野々宮家(夫・福山雅治)を豊かな家庭、斎木家(夫・リリー・フランキー)を貧しい家庭として比べていました。
野々宮家が高級車レクサスに乗っているのに対し、斎木家は軽自動車。野々宮家が高級マンションに住んでいるのに対し、斎木家は田舎町のボロ一軒屋。
また、野々宮良多(福山雅治)がブランドものの財布を使う一方で斎木雄大(リリー・フランキー)はマジックテープの財布を所有するという設定が細かくてよかったです。
しかしながらひとつ失敗だったのは田舎町の電気屋を営む斎木雄大の妻(真木よう子)が美人すぎるという点です。あそこまで細かくコントラストを出すなら、嫁の美醜のレベルにも同じく差を付けるべきでした。
真木よう子の演技が悪かったというのではなく、あれはキャスティングミスでしょう。もしどうしても真木よう子で行くのなら、20、30kg増量して撮影に臨むべきでしたね。
それか真木よう子と尾野真千子を逆にしてもいいぐらいです。どっちかというと尾野真千子のほうが貧乏臭いですもんね。
あと、全体的に対比の仕方が貧乏家庭の方が金持ちの家庭より愛が溢れていて温かいとしている描き方はいかにも映画的でしたね。あれで子供たちみんなが金持ちの暮らしをしている野々宮家に行きたがる、というふうにしないと。
そっちのほうが高いオモチャたくさん買ってもらえるし、といった子供の打算的な部分も出していいでしょ。
映画の中ではなぜかいつも貧乏が持ち上げられ、金持ちが下げられますが、実際には誰だって金持ちの福山雅治と貧乏のリリー・フランキーのどっちを選ぶかと言われたら100%福山雅治を選ぶでしょう。あの辺りはステレオタイプすぎてリアリティーに欠けましたね。
それにしても是枝裕和監督は子役を使うのが上手いですね。子供たちの演技が大人の俳優たちの演技を越えています。
是枝裕和監督の手にかかればリリー・フランキーですらまともな演技にまで到達しているのが驚きです。福山もリリー・フランキーもかなりはまり役だったんじゃないでしょうか。
是枝裕和監督がさすがなのは感動を長引かせないことです。視聴者の涙を誘うようなシーンがあっても長々と勝負せずにさっさと次のシーンに行ってしまうドライなところが格好良いです。
あそこで長引かせればそれこそ多くの視聴者が観賞後に「感動した」と周囲に言いふらすところですが、監督自身は「見てほしいところはそこじゃないんだよなあ」という気持ちなのかもしれません。
ただ悲しいだけじゃない、家族の葛藤と心境を描こうとしているのだから、淡々と話が進んでいくのにも納得できるのです。
誰がどっちの子供を引き取るのか、という議論の中で「二人共うちが引き取る」というアイデアは斬新でした。
ただ、当然息子を交換するという前提で話が進んでいき、でもやっぱりうまくいかないからやめようか、と野々宮良多(福山雅治)の気がコロコロ変わったり、基本彼一人の思惑で話が進んでいくような気配がありましたね。なんでお前が決めんだよ、と突っ込みたくなったのは僕だけじゃないはずです。
コメント
まあ良多が主役なので、良多中心に話が進んでいくんでしょうね。
取り違え、の話というより、父親になっていくストーリーなので いいんじゃないでしょうか。
お涙頂戴映画にしなかったところが良かった、同感です。
ノベライズ本を読むと裏設定がわかって面白いですよ。
なぜ真木よう子なのか、とか。
熊五郎さん
コメントありがとうございます。元ネタの本のほうも読んでみたいです。でも真木よう子はきれいすぎました。
例えば、どんなに疲れててもオムツ替えたり看病したり母乳(ミルク)あげたり、やっと言葉覚えてママとかパパって言われ嬉しかったり、初めて○○出来たねとか感動したり。なのに産院で取り違えてました…って、6年後に。
なんだか想像をこえる悲劇。というか葛藤で発狂しそう。(>_<)⁄ あんまりだ。
更に子どもとの時間や接し方に価値観の違いやら夫婦のあり方や暮らしぶりのギャップ…もう抱えきれない苦悩。
ただそんな中、虐待とかまるで無縁の家族同士だった事が、とても上品な内容に仕上がってたように思えた。
子どもと向き合ってきた今までの絆や引き裂かれる酷な現実の割り切れなさを割と上品に描いてたように感じた。実際は、あんなモンじゃないんだろうな〜と思う。経験したくないな…(+_+)
もし、息子が6歳の時、取り違えのガキだったら。
元に戻すは無理だな。
信頼関係が強すぎる。絶対に壊せない。
考えれば同じ答えだが、この息子の父親をやめることは絶対にできない。
血の繋がりよりも上か。
そうなると生物学的遺伝学的には間違いか。
遺伝的に自分の息子に対してはどう思うのか?
なってみないと分からんですよねえ。
考えさせられました。そう意味では面白かったです。