ティーネイジャーの子供がいる親が見たらぐさっと突き刺さること間違いなしの家族ドラマ。とにかく悲しくてつらいです。68点
The Son/息子のあらすじ
ピーターは前の妻と別れ、新しい妻との間に赤ん坊を授かったばかりだった。そんなとき突然前妻が家にやってくる。なんでも二人の間にいる17歳の息子ニコラスの様子がおかしいというのだ。ニコラスは落ち込んでいて学校にも行かずブラブラして自分を見失っているそうだった。
ピーターは翌日、ニコラスを訪ね、事情を聞いてみた。するとニコラスはお父さんと一緒に住みたいと言い出す。お母さんとはもう一緒にいられないと言う彼は苦しそうだった。
ピーターは離婚後ニコラスの側にいてやれなかったことに引け目を覚えていたこともあり新妻に頼んでニコラスを迎え入れることにする。
ところがニコラスはピーターと暮らすようになってからも憂鬱な毎日を過ごし、精神的に不安定だった。そんな中、ニコラスは自傷行為に繰り返すようになっていく。
The Son/息子
- ヒュー・ジャックマン
- ローラ・ダーン
- ヴァネッサ・カービー
- ゼン・マクグラス
- アンソニー・ホプキンス
The Son/息子
「ファーザー」のフローリアン・ゼレール監督による、うつ病の息子に翻弄される両親の苦悩をつづった闘病ドラマ。重くて悲しい良質な作品です。
17歳の息子が鬱にかかって学校に行かなくなる、という現代社会のあるあるストーリーを父親目線中心に描いているのが特徴で、ほぼほぼ脚本と演技のみで勝負しています。
17歳の息子ニコラスは母親と一緒に暮らし、父親のピーターは別の若い女性と再婚し、その女性との間に赤ん坊を授かったばかり、という状況がまた現代っぽくて現実味があっていいです。息子の鬱の原因に両親の離婚が大きく関係していて、ニコラスは自分は捨てられたんだ、父親に人生をめちゃくちゃにされたんだ、という思いを強く持っています。
父親が新妻と再婚したのはもともと不倫がきっかけだったこともニコラスが父親を許せない理由の一つで自分にはさも正しい生き方をしろ、とレクチャーしてくる父親こそ道徳に背いたことをしてきたくせに、と思っては吐き気がするのです。
それに対し、父親のピーターは子供の頃、母親を病気で亡くし、そのとき父親が仕事ばかりをして不在だったことを恨んでいて、せめて自分は自分の子供には優しくしよう、側にいてあげよう、という信念の下、生きてきたにも関わらず、結局は二世代に渡って同じことを繰り返してしまうのでした。それはまるでDNAに組み込まれているかのようで自分ではどうすることもできないのです。
そして両親ともにニコラスをどうにかしてやりたいけど、そもそも鬱病に対する理解が乏しく、なんで学校に行かないんだ? なんだ自傷行為なんてするんだ?と彼を責めるばかりで彼らはちっとも解決策を見出せません。ニコラス本人も自分が自分でないフワフワした不思議な感覚の中にいて、もはや現実と空想の区別もつかなくなっていき、ただただ生きているのが苦しいというかなり危機的な状況に陥ってしまいます。
そんな中、精神病院に行くことになるんですが、そのシーンはとにかくつらくて見てられませんでした。息子が精神病患者であることを受け入れることの抵抗。本当に精神病院に送ることが息子のためになるのかという葛藤。さらに息子がこんなところにいたくないから早く家に帰りたいといって泣き叫んで両親に助けを求める中、ドクターは危険だから絶対に今彼を家に帰したらダメですと真逆なことを言ってくるのを天秤にかけないといけなくなる両親の気持ちを察すると胸が痛みました。
この状況、あなたならどうしますか?という究極の選択を迫られるかのようなシーンで、なにが正解なのか誰もはっきり言えないんじゃないでしょうか。精神病院の中でなにが行われているか見えないし、手足を縛られ薬漬けにされてそのまま一生もとに戻らない可能性もあるからね。
精神医療が進んでいるアメリカならまだましなのかもしれないけど、遅れてる日本だったらなおさらのことで果たして自分の子供の自由を自らの決断で奪えるのかという難しい場面でした。
そしてついつい感情論で考えてしまうと、やっぱり息子があれだけ嫌がってるから可哀想だし、もうちょっと家で様子を見ようかということになるのも自然だと思います。それが正しい決断かどうかは別として。
精神病ってなにが正しい治療法か一概に言えないだけにそれだけやっかいですよね。かといって好きなようにさせてたら自然に治っていくほど簡単なものでもないし。あれ、最近笑顔が増えたし、調子が良くなってきたかな?と思ったら急に自殺願望に襲われたり、ほんと恐ろしいですね。そういうことをつくづく思い知らされる映画でした。
出演者たちの演技が安定しているため安心して最後まで見れますね。両親を演じたヒュー・ジャックマンとローラ・ダーンもよかったし、息子役のゼン・マクグラスもいいですね。ただし、MVPはヴァネッサ・カービーでしょう。
不倫の末、男を奪った女の役があんなに似合う女優もいないんじゃないかな。なんだろうなあ、あの冷たくて悪そうな感じ。全然、そんな役柄じゃないんだけど、ナチュラル悪女の雰囲気がプンプンしてるんですよ。年ごろの義理の息子が一緒に住んでるのにソファーでそのままやり始めちゃいそうになるところとか、さすがとしか言いようがないです。
コメント
まさに同じ年齢の子供がいるので、ずーんと重いものが胸に残る映画でした。
鬱になってしまうきっかけは父親にあれど、同じ状況でもああはならない子供もいるだろうし、繊細すぎてしまったのか。
心配すぎるがゆえに子供を責め立てるような口調になってしまうのもものすごくよく理解できるのです。
客観的には誰が悪い、何が悪いもないけれど、一生あの元夫婦は自分を責め続けてしまうだろうなと苦しくなりましたし、親の愛情だけではどうにもならないこともあるんだと切なくなりました。
これは子持ちの両親にはつらい映画ですね