責任問題が大好きな日本人による汚くて、気持ち悪くて、ずるい大人たちしか出てこない、日本のあるある話をまとめた映画。演技、演出、ストーリーに安定感があります。66点
空白のあらすじ
中学生の花音はある日、港町の地元のスーパーで化粧品を万引きしているところを店長の青柳に見つかり、店の奥へと連れて行かれる。ところが花音はまずいと思ったのか走ってスーパーを逃げ出す。青柳は花音を逃がさまいと後を追うが、なにがなんでも逃げ切ろうとした花音は車にひかれてしまう。即死だった。
事故後、花音の父親の充は無念の思いで一杯だった。娘が万引きしたとはとても思えず、何度も青柳のところに行き、彼を責め立てた。
もしかすると学校でいじめに遭い、無理やり誰かに万引きさせられたのかもと思っては充は今度は学校に行き、教師たちを罵倒した。どうにかして自分を納得させようとした充はだったが、娘の死はどうしても腑に落ちなかった。
一方でマスコミも騒ぎ立て青柳のスーパーは風評被害を受けるようになる。やがて事故の影響で関係者たちは次々と疲弊していく。
空白のキャスト
- 古田新太
- 松坂桃李
- 田畑智子
- 趣里
- 伊東蒼
- 片岡礼子
- 寺島しのぶ
空白の感想と評価
読者のもふすけさんが教えてくれた作品です。ありがとうございます。
「犬猿」、「麦子さんと」、「さんかく」、「ヒメアノール」、「BLUE ブルー」、「愛しのアイリーン」、「机のなかみ 」などで知られる吉田恵輔監督による群像劇。女子中学生の死をめぐって、大人たちがドロドロのモラルの争いを繰り広げる人間ドラマです。
日本社会の負の部分をこれでもかというほど突き付けられて見ていてちょっと嫌な気持ちになるタイプの作品ですが、それだけリアリティーがあり、見ごたえは十分でした。
ストーリーは95%ネガティブな話でラストに5%のポジティブシーンを持ってきて一気に巻き返す構成になっています。ずっと雰囲気を暗くしておいて、最後に明るくしてハッピーエンドを強調するっていうのは、社会問題などを取り扱うシリアスな映画でよく使われる手法ではありますね。
物語は万引きをした女子中学生が店員に追いかけられ交通事故に遭って命を落とすところから本題に入り、そこから少女の死に関係した大人たちによるエゴと偽善と道徳の争いが勃発します。
ろくに娘と向き合ってこなかった父親。少女を追いかけて死なせてしまった店長。その店長をなんとしても支えようとする中年女。少女をはねてしまったドライバー。偏見に満ちた報道しかしないマスコミ。
誰一人まともな奴がいないんだけど、それぞれみんな実在しそうなキャラクターばかりで、ある意味人間らしさを感じます。特に日本人なら大部分の人が、ここに登場する誰かしらにあてはまるんじゃないのかなあ、というぐらい日本らしさもありました。
冷静に考えると、「事故」に関して言えば普通に少女が悪いんですよ。自分で道路に飛び出したんだから。あれをされたらドライバーは反応できないもん。トラックはブレーキ踏む十分な距離があったようにも見えたけど、スピードが出てたら止まれないんですかね。まさか人が道の真ん中にいるなんて思わないだろうし。
たとえ少女に非があったとしても死亡してしまうと、たちまち被害者になるのが日本っぽく、事故そのものよりもそれ以前になにがあったのか、という背景にファーカスされてしまうのが不思議ですね。やれ学校でいじめがあったんじゃないか、やれ店長に痴漢されたんじゃないか、とか。たとえそういうことがあったとしても死因はあくまでも車との接触だからね。殺人事件だったら前後の文脈を知る必要があるんだろうけど、被害者自らが引き起こした交通事故なのに。
それでも原因を探り、責任や批判の矛先をどこかに向けようとするところが日本文化で、そしてまた少しでも事故に関わってしまった不運な人たちが自責の念に襲われ、自殺にまで追い込まれてしまう、というところに異常性を感じました。
それでも関係者同士が責任を擦り付け合うのはまだ分かるんですよ。特に娘を失った遺族からしたらどこに怒りを向けていいか分からないんだから誰かを責めたくなるのでしょう。しかし理解できないのはマスコミとか近所の人とか、関係ない奴らがああだこうだ口出しすることです。やれあいつが悪い、こいつが悪いって国民全員が裁判官みたいになる現象、ほんとやばいよね。
一番僕が嫌いな登場人物は少女の父親の添田充です。古田新太の演技は文句なしです。あの人相の悪さといい、口の悪さといい、なかなかのはまり役でした。しかしあのキャラそのものについては腹立ちますね。
そもそもろくでもない親子関係しか築けなかった奴が、娘が死んでから急に焦り出し、娘の無念を晴らすために行動しているつもりになってるのがむかつきます。ああやって自分がダメな父親だったことを償おうとしたのでしょうか。
娘が引っ込み思案だったのも、思考停止気味なのも全ては家庭内を恐怖で支配してきたあのダメ親父の責任でしょう。それを娘はいじめられてたのに違いないって考えに至るのがまず病的で、お前がいじめてたんだろって思いました。
対する一番好きなキャラは、寺島しのぶ扮するおせっかいおばちゃん店員ですね。ボランティア大好き。偽善大好き。正義大好きな彼女の一番の好きなものは若い男っていうのが最高です。それもただのイケメン好きっていうね。
あのキャラがいたせいか、重いはずの本作がちょくちょくコメディーになってガス抜きみたいな役割を果たしていましたね。できれば店長とやってもらいたかったなあ。それで翌日から人前でいちゃいちゃするようになって彼女面しだすところが見たかったです。
コメント
映画男さん今晩は。本作、登場人物達が良くも悪くも「気持ち悪い」所が話のミソですね。それだけ、俳優達の演技は「リアル」でした。実際の事件がモデルらしいですが、事故だけではなく、関係ない第三者が騒ぎ立てるところも、嫌なくらいリアルでした。
私も、古田さん演じる添田は「全ての元凶」過ぎて、最後まで共感も好きになることもなかったですね。所謂、「不幸撒き散らし人間」かなと。最後は、何となく「イイハナシ?」っぽくはなりますけど、彼自身が「変わったのかどうか…」、本作では色んな事象に「空白」という言葉が掛かっていますが、そんな彼の本質も正に「空白」なのかもしれません。
凄惨で重い内容故に、何度も観たくなる作品ではないですし、好き嫌いはハッキリと分かれそうですね。
確かにもう一度見ようとは思いませんね、いい映画だけど
わざわざ見てくれたんですね、ありがとうございます。
仰るとおり日本人の嫌なところが凝縮されたようなお話でしたね。
自暴自棄に陥って弁当屋にブチ切れるも、ふと冷静になって謝ってしまう店長の人柄がすごくリアルだなあ、と思いました。
面白い作品、教えてくれてありがとうございました。弁当屋に電話で切れるシーンは彼の気の弱さが出た名シーンでしたね。
このシーンは胸を締め付けるような感が存分に出てて彼の心境を思うと泣きたくてたまらないシーンだった
全ての登場人物に共感出来るだけに辛く苦しい話でした。
普段は圧倒的に洋画を見ていますが、日本人じゃないと深いとこまで理解できないだろうなあ、というこの様ないい作品に出会えると少し嬉しくなります^_^
寺島しのぶの役柄は良かったですね!
本当に身近にああいう人がいるのでひーっ!ってなりましたw
寺島しのぶは器用な女優ですよね