女性向けのちょっといいコメディ人間ドラマ。岐路に立たされた女性の人生を感じさせてくれる良作です。68点
セイント・フランシスのあらすじ
34歳のブリジェットはレストランのウェイトレスとして働く自分に引け目を感じていた。そんなある日、パーティーで同じレストランで働く年下のジェースと知り合い、たちまち男女の関係になる。ブリジェットはジェースとは真剣に付き合うつもりはなかった。ところが彼と関係を持ったことでブリジェットは妊娠してしまうのだった。
ジェースは真摯に向き合おうしてくれた。どんな選択肢でもサポートする意思を表明した。しかしブリジェットは最初から子供はいらないと決め、ジェースと話し合うまでもなく中絶することにする。それについてもブリジェットは何事もなく対処し、特に感情的にもならなかった。
まもなくしてブリジェットはレズビアンの夫婦の下でベビーシッターの仕事をすることになった。夫婦には赤ん坊が生まれたばかりで、ブリジェットは6歳の少女フランシスの面倒を頼まれた。
ブリジェットは最初こそフランシスとなかなか打ち解けなかったものの、徐々に二人の間には絆が生まれ、同時に今まで感じたこともない母性に目覚めるのだった。
セイント・フランシスのキャスト
- ケリー・オサリヴァン
- ラモナ・エディス=ウィリアムズ
- チャリン・アルバレス
- リリー・モジェク
セイント・フランシスの感想と評価
アレックス・トンプソン監督による、30代の独身女性の心境をつづった低予算インディーズ映画。地味で平凡な話ながら人物描写に長けていて面白かったです。
生理、妊娠、中絶、レズビアンなど女性特有の題材を多く扱っていて女性登場人物による女性向けの物語といえるでしょう。悪くいえばフェミニスト映画なんだけど、わざとらしさがなく、これだけ優れた脚本と演技を前にしたら男性視聴者も簡単に巻き込んでしまうだけの力があります。
ヒロインに対しては共感できる人もいれば嫌悪感を抱く人もいるでしょう。特に女性なら好き嫌いが分かれそうです。
ブリジェットはいわばうだつの上がらない、こじらせた30代の女性で、人生をどこか悲観して見ているところがあり、それゆえに男に対しても冷たいです。
年下の優しくて誠実な男と関係を持っても必要以上には自分のテリトリーに近づかせず、あくまでも遊びの関係を強調したり、鼻につくところも少なくないです。
仕事中も決して真面目とはいえず、面倒を見ている6歳の少女からすぐに目を離すし、それで危険な目に遭わせたりもします。
そういう様々な欠点やむかつく点はあるものの、その不完全さこそが本作のリアリティーにつながっていて、またアメリカ人女性っぽさが如実に出ていましたね。
当然のごとく中絶を選ぶヒロインの姿も現代っぽく、それに対して平静を装う感じがまた痛々しくもあり、寂しくもありました。泣いたっていいのに泣かないし、親にも相談せずに私の身体だからといわんばかりに全部自分で決めてしまいます。そんな姿もまさに今アメリカで議論の渦中にある「中絶する権利」と被るところがあって考えさせられますね。
ヒロインはそもそもキリスト教徒でもなく中絶=赤ん坊の命を奪う、という感覚もないようでした。子供は欲しくなるかもしれないけど今じゃない。次妊娠できるかどうか分からないけど中絶したかった、という考え方も個人の意見として尊重されるべきでしょう。あくまでも彼女の人生だから。
ヒロインの行動には賛否あるでしょうが、賛成だろうと反対だろうと一人の大人の女性が下した決断として物語を見ることができました。性格が決していいとは言えないものの押しつけがましかったり、偽善的じゃないのが良かったです。
しかしながらもしあういうタイプに惚れちゃったら男は苦労しますね。強がらねえでもっと本音で語りやがれよって叱りたくなりますね。
最大の見せ場は彼女が車の中で年下の男に初めて本音を語るシーンじゃないでしょうか。なんなら涙を誘うことも可能なすごくシリアスなシーンにオチをつけたのは監督の照れでもあったんでしょうか。あのシーンいいね。
コメント
今週観ました。
さすが、映画男さんが太鼓判押すだけありますね。
もっさりして垢抜けないヒロインに何故かどんどん感情移入してしまう。
少女も、アメリカ映画によくいる予定調和のものわかりの良い子じゃなく、強烈なむしゃくしゃをぶつけてくる存在で。おりあえないかと思いきやだんだん彼女のモヤモヤの正体がわかってきて。
生理とか不正出血とか、この作品では重要なモチーフの一つではあるんですが、女性にとってはものすごく日常的なことなので、もっと普通の映画にも登場してもいいんじゃないかとすら思いました。ブラックウィドウやキャプテンマーベルが「あっ出血しちゃった!」とか。
ちょっと腹立つヒロインに感情移入してしまうのが不思議でしたね。
感動を狙っていないのに、感動させて共感させるいい映画でした。
それにとてもリアリティがありました。
これ、いいですよね