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行き止まりの世界に生まれては上質のトラウマ克服映画!ネタバレ感想

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この記事は 約6 分で読めます。

家庭環境が人格形成に与える影響をこれでもかというほど突きつけられるドキュメンタリー映画。ただのスケボー映画じゃないです。77点

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行き止まりの世界に生まれてのあらすじ

ビン・リューはイリノイ州ロックフォードに住む中国系アメリカ人。彼は白人のザック、黒人のキアーと親友で、一緒にスケートボードをして育った仲だった。

ビン・リューは映像が好きで子供の頃から自分たちのことを記録するのが好きだった。最初はスケボーの様子をカメラに収めていただけだったが、やがてザックやキアー、そして自分自身のプライベートにフォーカスしていく。

ほかのロックフォードで育った若者たち同様それぞれが家庭の事情を抱えていた。ビン・リューはロックフォードに引っ越してきた後、母親が結婚した義理の父親に長らくDVを受けていた。キアーは実の父が暴力的だった。ザックには母親がいなかった。

大人になるにつれ、彼らにはそういった経験と真っ向から向き合わなくてはならなくなった。しかし家族に対する愛憎と向き合うのは決して容易なことではなかった。

ザックは恋人のニーナとの間に赤ん坊が生まれ、父親になったが、彼はなかなか父親としての自覚と責任を背負う覚悟が持てなかった。ザックは度々酒におぼれることがあった。やがてニーナが子供が連れて家を出ていってしまい、ザックは自暴自棄になっていく。

行き止まりの世界に生まれてのキャスト

  • キアー・ジョンソン
  • ザック・ムリガン
  • ビン・リュー

行き止まりの世界に生まれての感想と評価

【読者のmebonさんのリクエストです。ありがとうございました】

ビン・リュー監督による、自分自身と友人たちを長年撮り続けたドキュメンタリー映画。2019年のアカデミー賞ドキュメンタリー部門のノミネート作品にして、思春期から大人になる過程で、自分たちの家庭環境が知らず知らずのうちに与える影響をインタビューを通じて掘り下げていく青春家族記録ドラマです。

mid90s・ミッドナインティーズ」をノンフィクションにしたような作品で、いわば仲間内で撮影したプライベート映像をまとめたものなんですが、音楽の使い方、編集の仕方がとても上手く、本来ならあくまでも個人的な話に終わっているものが現在のアメリカ社会の問題を象徴する普遍的なストーリーに仕上がっているのが驚きです。

若者のスケボーストーリーなのかと思いきや、スケボーはあくまでも背景や登場人物たちの共通の趣味に過ぎず、彼らがいかにスケボーに心を救われているかを家庭内の問題と上手に対比させて見せています。

ビン、ザック、キアーの三人はそれぞれ複雑な家庭に育った共通点があり、家の中に自分の居場所がなかったことからせめてスケボーをしているときだけは嫌なことを忘れることができたようです。

しかしティーネイジャーだった三人がすっかり大人になり、自立していく過程で貧困や漠然とした将来の不安に直面していきます。今まではただスケボーをしながら仲間と遊んでいればよかったのに年齢を重ねたことで昔のようにはいかなくなってきたのです。

ザックの場合、若くして恋人との間に子供ができたこともあり尚更自分自身が大人になる必要がありました。自分は家族に恵まれなかったから、せめて自分の息子にはチャンスを与えてあげたい。そうは思いつつも恋人との関係はあっという間に破綻し、まもなくして酒に逃げ、自分の子供とも疎遠になっていく、という負のループが待っているのでした。

さらにあろうことかザックは恋人に暴力まで振るっていた、という事実まで発覚し、ただのクズ野郎になっていくのが残念でしたね。

ざっくりまとめると、育ちって大事だなあ、ということを改めて考えさせられる映画です。ここでいう育ちとは貧しいかどうかという単純な話でなく、小さい頃から身の危険を感じて育ったかどうか、家族にDV癖、アルコールや麻薬中毒の人がいないかどうかが、いかに子供たちに悪影響を与え、それが大人になっても呪いとなって付きまとっていくということです。そしてトラウマはまるで伝染病のように世代から世代へと受け継がれていくのが不思議ですね。

アメリカは大富豪たちがリッチな生活を送る華やかなアメリカンドリームがある一方で、何者かにならないといけない、といった社会的な圧力を受けながら、何者にもなれずもがき苦しんでいく貧困層の現実があって、そこにまた人種や社会階級間の摩擦が介入するから、若者たちもなかなか生きていくのがしんどそうですよね。

ビン、ザック、キアーの三人のストーリーは決してアメリカだけの話ではなく、日本人視聴者が見ても決して他人事じゃない迫り来るリアリティーがあるんじゃないでしょうか。

特に悲しくてやるせないなあ、と思ったのは監督のビンのストーリーですね。ビンのお母さんは中国人でビンのお父さんと離婚後、白人のアメリカ人と結婚します。ところがそのアメリカ人が病的なDV男で、お母さんが仕事で家を留守にしているとき、ビンにひどい暴力を振るっていたんだそうです。

ビンのお母さんも夫の暴力的なところには気づいていましたが、彼の優しい面も知っていたためなかなか別れることができず、結果彼はトラウマを抱えてしまったのです。

劇中では説明されていませんでしたが、ビンのお母さんとビンが英語で会話をしていたのはDV親父が家庭内で中国語を話すのを禁じていたからだそうです。その結果ビンは中国語を忘れてしまい、お母さんも片言の英語で息子と会話をしなければならなくなったんだそうです。いわば乱暴な白人男に大事なルーツを殺されてしまったわけです。

その一部分だけを見てもアメリカの侵略と略奪の歴史を物語っているようですよね。勝手に人様の家庭に入ってきて、今日からお前らは俺の言葉で話せとか無茶苦茶じゃないですか。

そういった背景があったうえで、お母さんがこの映画に出演したのはカメラの向こう側に座る息子に対し、懺悔の気持ちもあったのでしょう。

この映画のために私はなんでも手伝うし、お前の気持ちが少しでも和らぐのだったらなんでもするから、と言ったのは決して嘘ではないでしょう。そしてそんな申し訳なさそうな彼女の姿を見るのは正直つらかったです。

ただ、あのお母さんの涙にこそ、この映画の醍醐味の全てが詰め込まれているといっても過言ではないほど迫真のシーンでしたね。お母さん、あれからまた再婚したみたいだけど、今度はいい人だといいね。

コメント

  1. mebon より:

    レビューありがとうございました。
    自分は何となく感動しただけでしたが、うまく言葉にしてくれてうれしいです。
    邦題とかオバマが絶賛とかに惹かれて見たのですが、スケボーのシーンも綺麗で爽やかでした。自分達のある意味普通の半生を、奇跡的にうまくまとめたなあと思います。

    • 映画男 より:

      リクエストありがとうございました。見るかどうか迷って今までスルーしていたので、リクエストしてくださってよかったです。さすがスケーターだけあってスケボーのシーンはスムーズで上手く撮れてましたね。

  2. きのこ より:

    貧困のレベルが割と何処の国にもあるレベルなので、グローバルに共感抱ける作品になっていたと思います。
    これがインドの最下層カーストとかだったら、エグ過ぎてダークファンタジー感出てしまうし。
    ただ、ザックに関してだけは、正直「ああ、こういう奴は何やってもダメだろうな。」と思いました。