重くて悲しい中年女性の放浪物語。至って地味な内容ですが、人生ってやつを考えさせられる、いい映画です。74点
ノマドランドのあらすじ
2011年、不況の煽りを受けネヴァダ州エンパイアにあるUS石膏社が工場を閉めたことにより、ファーンはほかの多くの市民と同じように職を失った。
工場で経済が成り立っていたエンパイアから多くの人々は退去せざるを得ない状況に陥った。ファーンは所持品の多くを処分し、バンに乗って職を転々とした。
アマゾンの工場でバイトを見つけたファーンはそこで親切なリンダと出会う。リンダもまたバンで生活を送るノマドだった。そんな彼女からアリゾナ州にノマドたちの集まるキャンプがあると聞いた。
ファーンは病死した夫が愛した町を出るのを嫌がり、最初は断ったものの、厳しい寒さに耐えられなくなり、キャンプ地を訪れることにする。
すると、そこにはアメリカ中から癒しを求めてやってきた訳ありのノマドたちの姿があった。ファーンは彼らからノマドとしての知識や情報を授かり、ときどき仕事にありつきながらもまた各地を転々とするのだった。
ノマドランドのキャスト
- フランシス・マクドーマンド
- デヴィッド・ストラザーン
- リンダ・メイ
- シャーリーン・スワンキー
- ボブ・ウェルズ
ノマドランドの感想と評価
「エターナルズ」の中国人女性監督クロエ・ジャオによる、車上生活を送る現代のノマドをテーマにした人間ドラマ。ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞をはじめ、アカデミー賞作品賞、監督賞に輝くなど海外でかなりの高評価を得ている作品で、評判通り素晴らしい映画でした。
日本ではノマドというと、スタバなどのカフェで自由に働いているフリーランサーみたいな印象が強いですが、アメリカでは生活拠点を持たず、バンやキャンピングカーなどの車上生活を強いられている人々を主に指すようです。
日本人がちょっとオシャレっぽく使っているワードが、アメリカではほぼほぼ「ホームレス」の別称というのがなんとも皮肉ですよね。日本で誰が言い始めたんだろうノマドワーカーとかって。
主人公は60代の女性ファーン。彼女は夫を早くに亡くし、不況の中、職を失い、路頭に迷いながらも誰にも頼らず独りで生きて行こうと強い決意を固めているのが特徴で「うちで住んでもいいのよ」という誘いを受けても断固としてそれを断ります。
そしてノマドとして生きていく中で自分と同じような境遇の人達と出会い、自分の人生を見つめ直していく、というのが本作のあらすじです。
おおまかなプロットは失職した女性がバンで放浪生活をする、という単純なものですが、それを詩的、芸術的、哲学的に描いていて、あまり大きな出来事は起こらないのに不思議と退屈しませんでした。それどころか終始興味深く見れたし、ところどころで気持ちを揺さぶられるものがありましたね。
映像は綺麗だし、音楽はセンス溢れるし、人々が発するセリフには味わいがあります。メインキャスト以外の出演者は実際のノマドたちだそうで、それゆえにリアリティーは申し分ないですね。
若いときなら住居を持たず車で生活し、旅をしながら自由に生きるんだ、みたいなライフスタイルに憧れを抱いたりすることもあるでしょう。
しかし高齢者の車上生活の現実はそれとは全く異なり、貧困や家族を亡くしたりして、単純に家賃が払えない、という人たちがほとんどで、そこには若者が夢見る爽快感や楽しさはありません。あるのは孤独と寂しさと過去の思い出のみ。
そんな登場人物に感情移入するのは、ある程度年齢を重ねていないと難しいかもしれません。50、60代の人々にはどんぴしゃで刺さりそうだけど、逆に10代、20代には重苦しいだけの作品ともいえそうです。
これでもかというほど、ヒロインのファーンを悲しく描いているのでハッピーな物語ではないんですが、いわゆるハリウッドの典型的な家族ドラマとは全く別の視点で、アメリカ人家族、あるいはアメリカ人個人を絶妙に描いているところに好感が持て、ノマドたちの死生観に触れられるのもいいですね。
もちろん貧しさも背景にあるんだけど、最終的にはそれぞれが自分たちでその道、そのライフスタイルを選んでいる印象を受けるし、よくあるただの哀れな人達の物語になっていないのが救いでした。
ファーンの場合、姉妹からも男友達からも快適な生活を一緒に送らないかといわれてもやっぱり断るんですよね。夫のことが忘れられないというのももちろんあるだろうけど、根底にはやっぱり人間関係がわずらしい、人の面倒になりたくない、あるいは人々からジャッジされるのは御免だ、という思いがあるような気がします。
別にもっと人に頼ってもいいと思うんだけどね。プライドが許さないんでしょうか。私はホームレスじゃない、ハウスレスだ!って言い張ってたのが印象的でしたね。それがノマドのプライドなのか、あるいはなんだかんだいっても孤独を愛してるのかもしれませんね。
コメント
所謂「社会派映画」にありがちな説教臭さが無くて良かったです。
観ている側に各々考えさせるというか。
自分は職業柄、「アメリカの社会保障制度はどうなってんだ?」とか「インフルとかノロとか感染症が出たら一発で広まりそうだな。」とか「75歳超だと、認知症や予備軍みたいなノマドもいるんだろうな。」とか色々心配になってしまいました。
多分。今回のコロナでけっこう殺られたノマドがいるんだろうなぁ…。
考えさせられましたね。
この映画男という人は本当にノマドランドを観たのか?見ただけじゃないのか?
ファーンは孤独を愛してなどいない。むしろ、かつて愛する夫と支え合って生きていた愛情深い人だ。
かつて天涯孤独だった愛する夫と、職と、住居を失ってしまった時、自分がこの街を離れれば夫の存在した痕跡がこの世から消えてしまう。
だが住所を消され、思い出を処分できない、かつ、金のない彼女にとっては車上生活しか選択肢が無かった。
ノマドの生活をするうちに、やがてそれぞれのノマド一人ひとりに【故郷】があることが描写される。
故郷の在り方は実に多様だ。
うちで暮らさないかと、妹やノマド仲間の男性に誘われるが断る。意固地になったわけでもプライドが許さなかったのでも無く、そこはその人達のホームであって、彼女のホームでは無いからだ。
彼女にとってのホームとは何か?
亡き夫に他ならない。
死んだ人間、失われてしまったものがホームになりうるのか?
ノマドのリーダーが、「ノマドの生き方にはサヨナラがない。またどこかの旅先で、が挨拶なんだ。そして実際に再会出来るんだ。何ヶ月後か何年先かわからないけど。」
亡き夫=ホームには二度と辿り着けないわけではなく、夫への気持ちにサヨナラを告げない限りいつかどこかで再会できる。
この境地に至ったファーンは、思い出の品を処分して、また旅に出る。
監督の表現したかったことは、別にノマドが主題でなくても表現できる。
ただ、上中流階層の人々にすると、映画としてケレン味が強くなりすぎる。
ノマドの人々が監督のテーマとのシナジーがあるため、不自然さが際立たない、絶妙な構成になっている。
映画館でみました、女性が一人で生きて行くつらさや葛藤とか、おちていく様を期待しましたが…
いまいちでしたか、それは残念。
遅ればせながら映画館で見てきた50代です。
確かに哲学的で美しい映画でした、残りの人生どうケリをつけるかって辺りで色々考えちゃいましたね〜
美しいですよね。こういう映画がもっと日本で流行ってくれないかと歯がゆい思いです。