介護と農作業で自己犠牲を強いられている若い女の子が、自分の人生と叔父さんの人生を天秤にかける、悲しくもはた迷惑な話です。58点
わたしの叔父さんのあらすじ
10代で両親を亡くしたクリスはデンマークの田舎町で叔父と農園を営みながら二人暮らしをしていた。クリスは家畜の面倒を見るだけでなく、体の不自由な叔父の世話もしなければならなかった。
毎朝早く起きては酪農の仕事をし、暗くなったら叔父とテレビを見たり、ゲームをしたりしてから眠りにつく毎日。まだ20代のクリスにとってその生活は決して刺激的とはいえなかった。
クリスはかつて獣医になることを夢見て、獣医の学校に通ったこともあった。それを知っている獣医ヨハネスが彼女のことを気にかけ、獣医学の本を貸してくれたり、牛や豚を診察するときにクリスを一緒に連れていってくれるようになる。
ある日、教会を訪れたクリスは青年マイクと出会う。マイクはクリスをデートに誘うが、クリスは突然の誘いに行こうかどうか迷ってしまう。
今までただ繰り返しの日々を過ごしてきたクリスの生活に夢や恋といった大きな変化が訪れ、クリスは大きな決断に迫られる。
わたしの叔父さんのキャスト
- イェデ・スナゴー
- ペーダ・ハンセン・テューセン
- オーレ・キャスパセン
- テュー・フリスク・ピーターソン
わたしの叔父さんの感想と評価
フラレ・ピーダセン監督による、東京国際映画祭で上映されたデンマーク映画。酪農を営む若い女の子が叔父さんの存在に翻弄されながらも強い決断を下して生きていく様子を描いた家族ドラマです。
典型的な芸術路線の欧州映画といっていいでしょう。テンポはスローで、ハプニングはあまりなく、セリフは少な目です。見方によってはただダラダラとヒロインの農作業を映しているだけ、ともいえます。
特に最初の15分はヒロインがどのようなルーティンを送っているのかをほとんどセリフもなしで淡々と描いていて、もしかすると、これはかなりつまらない映画なんじゃないかと不安が頭によぎります
しかしそんな退屈と沈黙のスタートから少しずつ登場人物たちが言葉を発していき、ヒロインが置かれている状況が徐々に見えてくるような作りになっていて、謎めいた彼女に興味が持てれば最後まで見ることはできるでしょう。
ヒロインのクリスは10代で両親を亡くし、高校生の時に叔父の農家に移り住んだ過去があります。そして叔父が脳梗塞で倒れたことにより、彼の身の回りの世話もするようになり、若くして介護と農家を女手一つでやりくりする大変な生活をするようになった、というわけです。
とはいえまだまだ20代のピチピチのクリスに恋愛願望や夢がない、といったら嘘になり、ある日を境に獣医学に対する興味が再熱したり、恋をしてみようと思ったりもします。
しかしながらずっと農園でひっそりと暮らしてきただけに人とどう接していいか分からないクリスはなにかとこじらせます。
ある時はものすごく優しくなり、またある時は急に冷たくなり、急に愛想が良くなったかと思えば、また突然不機嫌になったり、と早い話が面倒臭い女なわけです。
おそらく自分自身も心境の変化に対応しきれずどうしたらいいか分からず、困惑しているんでしょうが、端から見たら情緒不安定すぎてまあうざいですね。
そしてそんなクリスの予測不能な行動とひねくれた性格がこの映画の最大の魅力であり、見所になっていました。
田舎にたまにああいう子いるよね。人に慣れてなさすぎて、異性と全然コミュニケーション取れない奴。一度、話し込んで仲良くなったかと思ったら、次に会ったときにはなぜかリセットされてる奴ね。
そんでもってあろうことかクリスは大事なデートに叔父さんまで連れていってしまう、というNG行動を取るんですよ。にも関わらずマイクはかなり紳士的だったと思いますよ。普通は最初のデートで家族連れて行ったら、二回目はないぞ。
そういえば昔、僕もブラジル人の女の子とデートして、お父さんを連れて来られたことがありましたよ。なぜか僕が女の子とお父さんの分まで飯代を奢ったりして、特に会話も弾まず、何も進展もなく帰っていったっけ。目の前に家族がいて、進展するかって話なんだけどね。
クリスの場合、叔父さんを連れていってそのまま何事もなく帰ろうとしたときに可愛らしく自分からキスして乙女らしさを見せていました。そこまではいいんですよ。
でもそれからのマイクに対する態度が本当にひどかったですね。あんなにひどい女も珍しいなっていうぐらい自己中だったし、病院にマイクがかけつけたときには「そっとしておいてよ」って突き返したのには絶句しました。
挙句の果てには何が目的よ、どうせやりたいだけでしょ、と言わんばかりに自分からズボンを脱いでテーブルに手をついてお尻を突き出す、っていうね。あんなことされて、じゃあ失礼しますってやれるかって。
それに対してマイクは最後まで紳士的で立派でしたよ。普通にブチ切れてもよかったと思うよ。なんならケツに蹴り入れて帰っても視聴者の共感得られたと思うしね。
もちろんクリスは叔父さんを見捨てることができなかったので、誘惑を消し去るためにあえて、乱暴な行動に出たというのもあるでしょう。それにしても、あそこまで極端な行動を取る必要ないよね。
いるよね、たまにゼロかイチかしか判断できない奴。恋愛も夢も家族のことも両立させたらいいだけじゃん。手が回らなかったら人に頼めばいいじゃん。本当は変化が怖いんだろ。どれだけ不器用なんだよ、お前は。
コメント
序盤、生活のルーティンをセリフなく見せ続ける。
この導入は私はとても好きでした。
決して叔父さんは今の生活を強要しているわけではなく、むしろ新しい一歩の後押しをしてくれていて、すべての選択はクリスに委ねられているんですよね。
けれど、一歩を踏み出す勇気がいまいち彼女自身にない。
それを叔父さんは1人じゃ無理、1人に出来ない、という独りよがりな思いで正当化しようとしてるように思いました。
それに判を押したような生活って楽ですしね。
恩を仇で返すようなクリスのやり方は感心できないけれど、過去の経験から生まれてしまった不器用さと言ってしまえばそれまでなんでしょうか。
映画男さんが、叔父さん同伴デートと同じような経験されていることに笑っちゃいましたww
不器用な話でしたねえ