ただの絶叫ものかと思いきや終盤にちゃんと伏線を回収し、それぞれのシーンに意味を持たせていく見ていて気持ちのいいホラー映画。ネットフリックスで見れます。68点
獣の棲む家のあらすじ
南スーダンの紛争から逃げ、欧州にボートに乗って入国を図った夫婦ボルとリアールはある日、身柄を拘束されていた施設から条件付きで保釈されることになる。
しかしもちろん彼らはまだ市民権を得たわけではない。亡命希望者としてイギリス政府が用意した家で暮らし、毎週暮らしぶりをケースワーカーに報告しなければならない。
ロンドンの郊外にあるボロボロの家をあてがわれたボルとリアールはそこで新しい生活を始める。新しい生活習慣に慣れようとした彼らだったが、あろうことにはその家には亡霊が棲みついていた。
獣の棲む家のキャスト
- ショペ・ディリス
- ウンミ・モサク
- マット・スミス
- ハビエル・ボテット
獣の棲む家の感想と評価
イギリスの新人監督レミ・ウィークスによる、海外で絶賛されている恐怖映画。トラウマ系ホラーとお化け屋敷系ホラーをミックスし、さらに紛争や亡命問題をストーリーに加えた斬新な作品です。
わずか90分ほどの話で登場人物が少ないのが特徴です。新人監督の長編デビュー作にも関わらず、決して安っぽさや低予算な感じがしないのはさすがネットフリックスですね。
一つ分からなかったのは原題をなぜ「His House(彼の家)」にしたのかということです。夫婦の話なんだから「Our House(私たちの家)」でも良かったのにね。それとも”彼”とは主人公のボルではなく、お化けを指しているのでしょうか。
さて物語は、亡命希望者である南スーダン人の若い夫婦がイギリスのロンドンの郊外に住むことになったものの、その家で次々と奇妙な超常現象が起こり、二人を苦しめていく様子を描いていきます。
いわばタチの悪いお化けが出てくるんですが、それには夫婦の過去が密接に関係しているようです。お化けたちは”夜の魔女”や”アぺス”などと呼ばれていて、亡命中に亡くなった娘やほかの南スーダン人たちの亡霊と共に姿を見せます。
若干、お化けの登場シーンはしつこく、お化けが声を出したり、物音を立てたりしつつ壁から腕を伸ばしてきたり、とベタな怖がらせ演出が続きます。
そうこうしているうちに夫婦の精神状態がおかしくなっていき、夫婦喧嘩が始まり、夫が妻を閉じ込めたり、妻が夫を攻撃したり、もうこんなことなら南スーダンに帰ったほうがましだとか言い出したり、お互い支離滅裂になっていきます。
一時間ぐらいそんなフリが続いた末、どうしてお化けたちが彼らにつきまっているのか、という核心に迫るシーンに入っていくんだけれど、そこからのストーリー展開は見事でした。
お化け屋敷系のホラー映画って、生前不幸のあった成仏できない霊が悪さするぐらいで案外バックストーリーが薄いものがほとんどじゃないですか。「ザ・ボーイ人形少年の館」しかり、「ライト/オフ」しかり、「死霊館エンフィールド事件」しかり、「ウィンチェスターハウス」しかり。とりあえず家にいる人を襲わせておけばいいみたいな。
でも本作はしっかりと社会背景を含んだオチを用意しているんですよね。そしてそれがあまりにも残酷かつ悲しい出来事で、それまでのしつこいフリを全て解消するほどのインパクトを持っていました。
これだけのことがあったら、そりゃあトラウマになるし、幻覚も見るだろうし、お化けに取りつかれた気になるわっていうぐらいな話なので説得力が違うんですよね。お化けは生存者である夫婦が背負っていた罪の意識を表すメタファーだったとも言えるし、様々な解釈ができそうですね。
正直怖かったかというと、それほど怖くはなかったです。ただ、たとえ怖くなくてもストーリーがしっかりしていることでまともなホラーになっていました。つまるところ上質なホラーを作るにはあえて怖がらせる必要がない、っていうことなのかもしれませんね。
それよりも大切なのはアイデアであり、脚本であり、意外性なんでしょうね。最後はなんだか夫婦の再起の物語のような清々しさを残す終わり方になっていて、上手くまとめたなぁ、という感想を抱きました。
決して消えない過去。忘れられない出来事。残してきた人々たちに思いをはせながらも夫婦が前向きに生きようと一歩を踏み出した姿が見れてよかったです。
紛争地帯から先進国国に亡命してきた人たちは案外本当にボルとリアールのような悪夢に悩まされながらもトラウマを乗り越えていくのかもしれませんね。
コメント