イスラムの教えに背いたとして大人の女性をなんとしてでも殺そうとする少年の物語。その外見からはとても想像がつかない過激な行動に出る少年から目が離せませんでした。55点
その手に触れるまでのあらすじ
13歳のアラブ系ベルギー人の少年アメッドは信仰心の強いイスラム教信者だった。アメッドは食品店の二階にあるモスクに熱心に通っていたが、やがて導師などの影響を受けて過激な思想を持つようになっていく。
女性に触れてはならないという理由からアメッドは学校のイネス先生ともさよならの握手をしようとしなかった。イネス先生はイスラム教徒に対して日常会話のアラビア語を歌で学ぶ機会を提供しようとした。
しかしアラビア語はコーランから学ぶべきだ、といった反対意見が飛び交った。アメッドも反対する一人だった。聖なるアラビア語を歌で教えるなんてアラーへの冒涜だと思った。
そしてアメッドはある日、ナイフを服に忍ばせイネス先生の自宅へと向かうのだった。
その手に触れるまでのキャスト
- イディル・ベン・アディ
- ミリエム・アケディウ
- オリヴィエ・ボノー
- ビクトリア・ブラック
その手に触れるまでの感想と評価
「少年と自転車」、「ロルナの祈り」、「サンドラの週末」、「ある子供」,
「午後8時の訪問者」などで知られるジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督による、イスラム教を熱心に信じ込んだために歪んだ思想に染まっていく少年を描いたベルギー映画。若干13歳のちびっ子一人テロリストによる宗教ドラマです。
娯楽性、芸術性共に低めです。その一方で素朴な俳優たちを起用し、まるでドキュメンタリーのようなリアリティーを創り上げているのはさすがですね。
1時間半にも満たない短いストーリーの中に危なっかしさと怖さと、先の読めない展開をバランスよく混ぜていました。
手持ちのカメラで、主人公を近距離からひたすら追っていく撮影方法も相変わらずです。好き嫌いが分かれる撮り方だし、カメラ酔いする人もいるかもしれませんが、すぐ目の前で出来事が起きているかのような臨場感は十分に出ています。
つまるところダルデンヌ兄弟が好きな人なら見れる作品で、逆にそうでもないっていう人には退屈かもしれません。
物語の主人公は13歳のイスラム教徒の男の子です。ベルギーで育った彼は、マイノリティーとして育ち、宗教を心のよりどころとしている気配があります。
彼にとって神にお祈りを捧げることは一日の出来事の中で何よりも大切なこと。だからこそお祈りのシーンが何度も登場します。
一見、普通の可愛らしい少年のようでアメッドは、過激派の思想を持っていて、また13歳にして女性を蔑視しているような態度を取ります。
お母さんがお酒を飲むことに嫌悪感を覚え、姉のラフな服装も彼には下品に映ります。
そんな中でアラブ系でありながらユダヤ人の恋人がいるリベラルな考えを持つ先生に対し、強い反発を覚え、やがてジハードの標的として殺すべきだと考える、というのが話の流れです。
一体どういう経緯でアメッドがあそこまで歪んでしまったについては説明不足でしたね。
指導者にそそのかされたにしてもあの年齢で、それもベルギーで生まれ育った少年にしてはあまりにも極端な選択ですよね。
もうちょっと彼の背景についてのエピソードがあってもいいかな、という物足りなさはありました。
特にベルギー社会においてイスラム教徒の人々がどんなふうに生きているのか。また、どんな差別や偏見に苦しんでいるのか、などが想像つかないので、アメッドの心境を読み取るのが難しかったです。
ベルギー社会に対するなんらかのコンプレックスを抱えていたのかもしれないけど、欧州で育って、あれだけキリスト教とユダヤ教を敵視してるってちょっと行き過ぎてますよね。また、彼が特定の女性に執着する理由も分からなかったです。神を冒涜したというのが理由だったら、農場の女の子だって刺さないとね。
見どころは、そんなこじらせたイスラム教徒の少年がナイフで女教師を殺そうとしては失敗し、少年院に送られてもなおまだ殺すことを諦めない彼の執念の姿でしょう。
そしていつまた少年が誰かを刺すか分からないところにハラハラドキドキがあって、怖い演出をあえてしない新手のスリラーのようでした。一見、人に危害を見せないから余計に怖いですね。
あんな顔して少年院で歯ブラシの先をとがらせて武器にしたりするんですよ。発想がもろベテランの受刑者じゃん。恐ろしいなぁ、もう。
あのラストシーンはどう受け取っていいんでしょうか。改心したのか。それともしていないのか。
僕にはただヘマしたせいで、気が弱くなったとしか思えなかったですけどね。あんな子でも果たして変わることはできるんですかね。
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