認知症で記憶を失っていくお父さんに対する介護の様子を精一杯偽善的に美しく描いた感動ポルノ。家族愛を美化しすぎていて、逆に人間味が感じられない作品。20点(100点満点)
長いお別れのあらすじ
父の70歳の誕生日に久しぶりに実家に帰った長女の麻里と次女の芙美は、母から父が認知症になったことを告げられる。
長女の麻里はアメリカに住み、夫とも息子とも関係が上手くいっていなかった。それに対し、次女の芙美は料理人としてどんな道を進もうか悩んでいた。
そのうち父の認知症は徐々にひどくなっていった。家族の顔も認識できないほどになり、家を出たきり、帰ってこなくなることもしばしばだった。
長女も次女もそれぞれの悩みを抱えながら、少しずつ物事を忘れていく認知症の父を中心に家族とは何かを自分なりに考えていく。
長いお別れのキャスト
- 蒼井優
- 竹内結子
- 松原智恵子
- 山﨑努
- 北村有起哉
- 中村倫也
- 杉田雷麟
長いお別れの感想と評価
「チチを撮りに」や「湯を沸かすほどの熱い愛」などで知られる中野量太監督の極めて中身の薄い家族ドラマ。中島京子の同名小説を基にした闘病ものです。
認知症の父親をめぐって家族たちが自分の人生に向き合っていく様子を、あざとい感動狙いの演出で描いた作品で、話にポイントがなさすぎてとても集中して見れなかったです。
ボケたおじいちゃんで笑いを取って、おじいちゃんに優しくする家族で涙を誘おうという狙いがミエミエで、全体的に安っぽいです。
介護のシーンは甘っちょろいし、女三人がどこか浮世離れしていて、リアリティーが感じられませんでした。
まず、気になったのは長女の麻里がアメリカに住んでいるという設定ですね。これアメリカのシーン、ほとんど日本で撮ったでしょ? 家から学校から全部日本っぽいもん。
家のスイッチ、キッチンのシンク、教室の机の高さまでもろもろ低いし、アメリカ人もいかにも日本在住のアメリカ人っぽい人たちが起用されてますよね。
もしそうならあの設定いらないじゃん。別に日本の別の都市に住んでるってことでいいじゃないですか。
いちいちアメリカのシーンが割り込んでくる度に絵的にもストーリー的にもバランスが悪くなるんですよね。挙句の果てには肝心なラストシーンまでアメリカにしてるしね。あのラストシーン絶対いらないでしょ。息子、なんで金髪になってるのよ? 普通、ラストにそんなしょうもない突っ込みどころ持って来ないでしょ。
姉妹のそれぞれのエピソードも物足りなかったです。夫との関係が冷め切った長女。自分の人生に思い悩んでいる次女。うーん。どっちも全然話が膨らみません。
膨らまないし、せっかく膨らみそうなときにはちゃんと描かないっていうのばかりで、ただただ何がしたいのか分からない二人に映っていました。
次女の芙美の男性関係についても描くなら描けよって言いたくなります。ざっくりしか触れなかったですよね。
バツイチ子持ちの男と上手くいったかと思ったら娘と再会している姿を遠くから覗いて勝手に傷ついたりしてるし、もう訳が分かりません。
最愛の娘と会えたらお父さんはそりゃあ嬉しいだろ。自分の男が喜んでる姿を見て、マイナスの感情抱くって、そもそもバツイチ子持ちの男を受け入れてないじゃん。それなら最初から付き合うなよ。
それにその後、バツイチ男と何があったかも描かれず、何もなかったことになっているのが笑えますね。
あと、じゃがいも男ともどうなったのかはっきりしないし、その辺を曖昧にする意味がないんだよねぇ。
長女と夫の関係もなにがどう解決して、二人が仲直りしていったのかも全然伝わってきません。
アメリカに住んでるのに、日本でちょっとしたことがあると、「私、帰ろうかなと思ってる」とかいう奥さん嫌だなぁ。旦那がいうように彼女は自分の家族のことをちゃんと見てないし、家庭の問題から目を背けるために実家に帰ってるでしょ。面倒くせえなぁ。
結局姉妹二人はプライベートではあまり上手くいってないけど、お父さんには愛情たっぷりですアピールしかしてないんですよね。
特に二人の優しさとか家族愛とか僕には感じなかったですねぇ。大きな喧嘩をしないだけで、別に優しくはないでしょ、あの家族。
どうせならお父さんの今後をめぐってもっと言い争いとか、女三人で髪の毛の引っ張り合いみたいなドロドロの戦いを見せてもらいたかったです。あんなゆるくて、嘘っぽい家族を映画の題材にするなよって。
あと、なぜかストーリー上で2007年秋とか西暦がやたらと出て来ますね。しかしこのストーリーにおいてどの出来事が何年に起きたなんてさほど重要じゃないです。
結局、西暦は東日本大震災を絡めるためだけに使われてるようなもんで、絶望感とか不幸を演出するに東日本大震災を使う邦画最近多いよね。それなのに東日本大震災のエピソード自体も必要かどうか疑わしいレベルの描写にとどまっていて、いろいろもったいないことしてますね。
とにかく一事が万事、無駄と退屈とさほど優しくもないエピソードに溢れた話でした。
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