五輪を目指すロシア新体操チームを追いかけたショッキングな記録映画。選手をこれでもかといじめるコーチたちを見たら、嫌になってきて新体操のイメージが変わってしまう作品です。78点(100点満点)
オーバー・ザ・リミット新体操の女王マムーンの軌跡のあらすじ
新体操でリオ五輪を目指しているリタことマルガリータ・マムーンは、ロシアの代表チームで日々過酷な練習に励んでいた。
彼女に対し、コーチ陣は容赦なく暴言を飛ばし、精神的に追い込んでいく。試合で負ければ、人前で怒鳴られ、侮辱の言葉を浴びせられるのも日常茶飯事だった。
リタは精神的にも肉体的にも限界に達しようとしていた。足に痛みを覚え、病院に通いながら練習を続けた。ときどき会える恋人や家族がそんなリタの唯一の支えだった。
また、不幸にもリオ五輪を前に父親が癌を患い入院する事態になり、余計にリタは精神的に揺さぶられていく。それでも五輪でメダルを獲るため、ロシアのため、そして自分のためにリタは立ち上がっていく。
オーバー・ザ・リミット新体操の女王マムーンの軌跡のキャスト
- マルガリータ・マムーン
- アミナ・ザリポワ
- イリナ・ヴィネル
オーバー・ザ・リミット新体操の女王マムーンの軌跡の感想と評価
マルタ・プルス監督による、新体操五輪ロシア代表の練習風景を追った衝撃のドキュメンタリー。
パワハラやモラハラが当たり前の世界で、必死に食らいつきながら戦っていく新体操の選手たちの姿に対して、様々な感情、議論が沸き起こるであろう作品です。
主人公は、新体操ロシア代表のリタことマルガリータ・マムーン。五輪を目指して激しい練習に臨むのは当たり前ですが、そこにもあまりにも冷酷で、スパルタな世界が広がっていました。
特にリタに対してコーチ陣が「地獄に落ちろ」、「メス牛めが」、「ファックユー」などの暴言を日常的に浴びせている様子はあまりにもショッキングで、それをカメラの前でも平気でやっていることを考えると、普段はもっとひどいことを言ってるんだろうなぁ、というのが想像できます。
あの様子なら下手したら暴力とかも日常的に行われている可能性もぬぐえないですね。
美しさを競う競技の練習風景は、まさに軍隊でリタは人間として扱われません。あくまでも一人のソルジャーで、国のためにメダルを獲ってくることがミッションだとでもいわばかりに、彼女の精神および肉体のコンディションなどお構いなしです。
とにかくロシア人のおばちゃんたちの口の悪さには唖然としましたね。この映画を見たら確実にロシアのイメージが悪くなるでしょう。ああ、おそロシア。
若干20歳の女の子にこれでもかというほど、侮辱の言葉をかけつづける張本人は、ほかでもないイリナ・ヴィネルです。
イリナ・ヴィネルは老害や権威主義者を絵にかいたようなクソババアで、どぎつい化粧にド派手な服に身を包んだ、強烈なキャラクターをしたヴィランです。
ドキュメンタリーにおいてあんなに分かりやすい悪役は珍しく、フィクションでもなかなか創れないキャラクターですよ。
肩書がまたすごく、全ロシア連邦新体操総裁、国際体操連盟(FIG)専門委員会副総裁だって。なんとも重苦しい名前だこと。「なによ、私を誰だと思ってんの? 全ロシア連邦新体操総裁よ」とか普段から言ってそうだもん。
どうでもいいけど、なんだよ、この格好は。アクセサリーつけすぎだろ。ロシア中のブティックをはしごして、名刺見せて無理やり半額とかにさせてそうだもん。こいつにユニクロ着せたいわー。
昨今、パワハラだ、モラハラだと騒がれている世の中においてロシアだけはグローバルな基準やモラルに沿う気はさらさらないんですかね。
よくあんな自分の姿をイリナ・ヴィネルが撮影を許可したなぁって思うんですよ。多分、相当感覚がずれてるんでしょうね。
イリナ・ヴィネルが悪いのは、試合の直前直後に選手のところにつめかけていって、「お前はクズだ、地獄に落ちろ」などと平気で言うところです。
ただでさえ落ち込んでいる選手にさらに畳みかけるって逆効果じゃないのかな?って思っちゃうんだけど、彼女の考えは違うんでしょうね。
それで結果が出たときだけ、「素晴らしい。お前は最高だ」とか手のひらを反すし、リタのお父さんが重病なのに、練習中にそのことを言及する、というモンスターぶりがやばかったです。
もちろん20歳のリタはそんな暴言を苦しそうに聞くしかありません。言い返すことなど到底できないし、ひどい言葉を聞かされる度にリタがする苦しそうな表情が忘れられません。
一方でアシスタントコーチのアミナ・ザリポワはリタに対し、汚い言葉を浴びせることもありますが、まだリタを我が子のように見つめる母性のような愛情が感じられました。
ただ、そんなアミナ・ザリポワもラスボス、イリナ・ヴィネルには頭が上がらないのが見ていてわかって、ものすごく上下関係の下に組織が成り立っているのが伝わってきます。
日本でも体操コーチが選手に暴力を振っていた問題があったけど、スポーツの世界でも五輪とか権威のある大舞台がかかってくると、監督やコーチが威圧的になって選手たちに異常な期待と結果を求め出すのなんなんでしょうね。リタなんて「薄汚い犬」呼ばわりされたり、もう可哀想で仕方なかったです。
ただ、五輪は戦争だ、という思いでやっている人たちからしたら、そんなにこの世界は甘くねえだよってことなんでしょう。
そんな世界に憧れ、入ってきたのはリタ本人だし、あれがロシアの文化といわれてしまったら、それまでですね。
すでに結果が出ていることなので、あえて隠す必要はないからいいますが、この映画の最大のオチは、散々虫けら扱いされてきたリタがリオ五輪に出場して、金メダルを獲っちゃう下りでしょう。
大会直前の最後の練習では全然集中できてなく、精神的にも崩壊寸前だったのに、あれでも本番で金メダル獲るってやっぱりマシーンですね。もう笑っちゃいましたよ。
あの流れからすると、メダルは獲れませんでしたっていうオチになるんだろうなぁ、と思ったら、ちゃんと結果が出しちゃうんだもん。
それこそが一番の衝撃で、下手したらロシア代表チームのパワハラやモラハラを肯定しかねないのが恐ろしかったです。
「ほら、見たでしょ? 金メダル獲ったんだから、私のやり方に間違いなかったってことでしょ?」とイリナ・ヴィネルに言われたら、また誰も何も言えなくなっちゃうんじゃないのかなぁ。
いやあ、なかなかすごいもの見せてもらいましたね。一つ分からなかったのはマルタ・プルス監督の意図ですかね。
マルタ・プルス監督自身、昔新体操をやっていたそうで、だからこそこのドキュメンタリーを撮りたかったらしいんですが、果たして彼女はこの世界の現実を批判的に描きたかったんでしょうか。
ロシア代表批判とも受け取れるし、そうじゃないとも受け取れるし、どっちなんでしょうかね。
それにしてもロシア人って笑わないよね。リタなんて若くて、可愛い女の子なのにほとんど笑顔がないし、人間味が感じられないのが寂しいですね。
ちなみにリタの父親はリオ五輪後に亡くなったそうで、彼女も新体操を辞めたそうです。そりゃあ、辞めるわ。
コメント
ぜひ見てみたいですね。
日本では、こういうわかりやすいのはあまりないかもしれませんが、
あの手この手で、自国のメダル候補選手に圧力をかけ,嫌がらせをし
ある国の選手を勝たせるために貢献したと言われている
フィギュアスケート界がかなりヤバイみたいです。
五輪競技の協会はどこも腐ってますね。