文学的、哲学的に描こうとして失敗した、多くの作品の中に埋もれては消えていく映画。テーマ選びの時点で外しています。16点(100点満点)
映画銃のあらすじ
大学生の西川トオルはある日、河原で死体の横に転がっていた拳銃を見つける。なにげなく銃を手にすると、西川トオルはたちまち不思議な魅力にとりつかれてしまった。
銃を持ったのを機になんでもできるような気分になった。誰かを脅すこともできる。守ることもできる。殺すこともできるし、自殺にも使える。そんな万能な銃はどこか美しかった。
ところが西川トオルは次第に銃を撃ってみたいという衝動に駆られ、公園にいる猫を撃ち殺してしまう。
しかしそれだけでは彼の気持ちは収まらず、やがて人を撃ちたいという強い執着に襲われていく。
映画銃のキャスト
- 村上虹郎
- 広瀬アリス
- リリー・フランキー
- 日南響子
- 新垣里沙
- 後藤淳平(ジャルジャル)
- 岡山天音
- 村上淳
映画銃の感想と評価
「百円の恋」の武正晴監督による、銃を手にしたことをきっかけに狂気へと陥る青年を描いた白黒映画。中村文則の同名小説の映画化です。
必然性と説得力のあるエピソードがほぼ皆無で、主人公が銃を見つけてから発砲するまでの過程をダラダラ描いているだけの駄作です。
サスペンス性を持たせたいのか、人間ドラマにしたいのか、恋愛を描きたいのか、やることなすこと全部が中途半端でした。
ストーリーは退屈だし、テンポは悪いし、白黒の映像を活かせてないし、主役の村上虹郎は穴だらけの演技をしています。ナレーションがとにかく下手で、たばこの吸い方がわざとらしいです。
あと、安いマイクを使ったのか音声がこもってましたね。もしかしてあれは「昔風」の演出なんでしょうか。
ストーリーは冒頭からひっかかりました。大雨の中、主人公が河原で何してんだよっていうのから始まり、死体の横にあった拳銃を拾って家に持って帰る、というのをさも自然に描いていたのには笑えました。
普通、まず拳銃よりも死体に注意が行かないか? 死体はフル無視で、銃だけ手に取って「銃があるだけで気分が上がっちゃうぜ、俺」みたいなセリフが続くのは違和感しかなかったです。ダーティハリーでもそんなこと言わねえぞ。死体を見慣れてるとかならまだしも、ただの大学生だからね。
あれだと銃を手にしたことをきっかけに頭がおかしくなったんじゃなくて、もともとおかしかったことになっちゃうじゃん。死体見つけたんなら、とりあえず警察に通報しようよ。
また、銃を手にした大学生はなぜかやたらと女にモテちゃって、合コンに行ったら即モデル級の美女をお持ち帰りでその日に最後までやり、そうかと思ったら同じ大学の美少女からも同時期に言い寄られます。
そこまではまだいいとしても、片方とは愛欲に溺れるのにもう片方とはプラトニックな恋愛になるのが嘘っぽかったです。行動に一貫性がないし、行きずりの女と肉体関係を持つことで刹那的に生きていることを表現したいなら両方とやれよって。
邦画って脱がせ要員(日南響子)と脱がせられない要員(広瀬アリス)ではっきり線引きがされているからベッドシーンがストーリーの中に自然に溶け込んでいかないんですよね。それもヒロインは脱がなくてOK。脇役は脱いでください、みたいなとんでもないブラックな格差がありますよね。
それでよりによっていつも本命の女に限ってプラトニックになる、みたいな設定になるじゃないですか。そうすることがまるで真剣かのような描き方をしてさ。むしろ本命とのほうがやりたいだろって思っちゃうんですよ。
また、主人公が銃を発砲したくて仕方なくなる様子をうまく描けていませんでしたね。そもそも社会に強い恨みがあるとか、誰かに因縁があるとかじゃないから、隣人のキャバ嬢をターゲットにしたりしてるし、撃ちたい撃ちたい、言ってる割にはそんなにいうほどの動機も理由もないんですよ。
だから結局のところ外でちょっとむかついたランダムな奴に撃つ、などというしょうもないオチで終わっていくでしょ。
つまるところあいつに銃なんて必要ないし、道に落ちてた銃を拾って溺愛するほどの背景も殺人願望もないってことです。
だからなんら面白みを感じませんでしたね。おそらく「タクシードライバー」みたいなふうにしたかったんじゃないかなぁ。
でも銃社会のアメリカで、銃をめぐる狂気を描くのと、日本で描くのとはリアリティーに雲泥の差が出るのは明らかですよね。
だって監督をはじめ出演者やスタッフも含めて銃を見たこと、触れたことある奴、何人いるよって話じゃん。そんな奴らが集まって「銃」をテーマに映画撮ってもそりゃあ薄ぺっらくなるよ。アフリカ人が侍の刀をテーマに映画を撮っちゃうみたいなもんだよ。それに気づこうよ。
正直なところ「百円の恋」の監督が撮った、という理由だけで僕はこの映画を見ました。おそらく僕と同じように「百円の恋」の興奮をまたいつか感じられるのではないかと武正晴に期待している人は少なくないんじゃないでしょうか。
しかしあれ以来、嘘八百しかり、リングサイド・ストーリーしかり、駄作しか撮ってないですよね。まぐれだったのかなぁ。
コメント
モノローグで「拳銃を拾って世界が変わった」とは言ってるけど、もともと変な奴だったのかも知れないという所がこの映画の面白い所でしょ。それに主人公はおそらくもともとモテるのでしょう。
モノローグそのものが主人公の本音というよりはツイートされる仮想の自分みたいな表現になっているので、この主人公が社会に対して恨みを持っていないとは限らない。瀕死の実父に対して歪んだ行動をするし、好きな女が居ても別の女とセックスしまくるし。そもそも本当にこの女が好きなのかどうかも曖昧な所、例えば普段隣にいる友達が本当に自分が思っているような人間なのか?というような事を楽しむ映画だと思います。
キャバ嬢をターゲットにするのも子供時代のトラウマに関係あるのかも知れないという風に見える。最初の段ではおかしい人にも普通のよくいるシニカルな大学生にも見える主人公を観察する事を通して人の分からなさとか現代において人の本音の見えづらさみたいな空気を感じる映画ですね。リリーフランキーが本当に刑事なのか刑事のふりをしたヤクザなのか分からない、得体の知れない恐怖としてやってくることもそのテーマに機能している。オチは確かにイマイチだけど。
映画男さんはエンターテイメント作品しか理解をする頭がないのだということを悟った方が良いですよ。この作品の音響表現をとって、昔の映画を再現しようとしている(そもそもどの昔?)などと言ってしまうのも、昔の映画を観ていないという事がバレるだけです。