脚本、演出、演技のどれもが非常にレベルが高く、子供よりも大人向けに作ってあるアメコミ映画。ヒーロー映画が苦手な人にこそ見てもらいたいです。77点(100点満点)
映画ジョーカーのあらすじ
アーサー・フレックは貧しく、精神に病を抱えながらもゴッサムシティでなんとかコメディアンを志していた。
小さなアパートで母親と二人暮らしをしている彼は、ピエロのバイトでなんとか食いつなぎ、いずれ憧れのコメディアン、マレー・フランクリンが司会するトーク番組に出ることを夢見ていた。
アーサー・フレックには笑いをコントロールできない精神疾患があった。そのせいでときどき発作的に笑いを発してしまい、人々からは白い目で見られ、気持ち悪がられた。
ピエロのバイト中には不良少年たちに看板を盗まれ、追いかけると、殴る蹴るの暴行にあった。
にも関わらずバイト先のボスは、アーサー・フレックの咎めた。ある日、アーサー・フレックはバイト仲間から身を守るために銃をもらい、護衛のために携帯するようになる。
するとあろうことか病院で難病の子供たちの前でピエロのパフォーマンスをしている最中、みんなの前で銃を落としてしまう。
同じ晩、アーサー・フレックは地下鉄の中で三人組の男に絡まれ、咄嗟に銃を抜き、三人共銃殺する。そのとき彼は妙な解放感を抱いたのだった。
ピエロの恰好をした男が殺人事件を起こしたとしたゴッサムシティでは一大ニュースになった。殺された三人はエリート階級の人間だったため、常日頃から富裕層に支配された社会に不満を持つ貧困層には事件がデモを起こすきっかけとなった。
アーサー・フレックは真面目に生きていたときには誰も自分を相手にしなかったのに対し、人を殺した後ではまるで人々が自分の存在を認めているような快感を覚えた。それを機に彼はピエロの殺人鬼ジョーカーと化すのだった。
映画ジョーカーのキャスト
- ホアキン・フェニックス
- ロバート・デ・ニーロ
- ザジー・ビーツ
- フランセス・コンロイ
- マーク・マロン
- ビル・キャンプ
- グレン・フレシュラー
映画ジョーカーの感想と評価
「ハングオーバー」シリーズや「ウォー・ドッグス」で知られるトッド・フィリップス監督による、バットマンシリーズの悪役ジョーカーを主人公とした上質の人間ドラマ。ベネチア国際映画祭金獅子賞に相応しい傑作です。
従来のアメコミ映画の殻を完全に破ったダークでディープな話で、CG頼りのアクションや漫画的要素を極力排除し、普遍的かつ芸術的人間ドラマに昇華させることに成功しています。アメコミ映画にこれだけの芸術性を感じたのは初めてです。
主人公がアメコミの登場人物というだけで、社会の隅に追いやられ、精神に異常をきたし、犯罪に走るサイコパスを描いている、という点においては実社会に通用する普遍的な物語になっているので、ヒーロー映画に抵抗がある大人でも普通に見れるはずです。
その一方で最近のド派手なDCやマーベル映画に慣れ、それを同じノリのアクションヒーロー映画を期待している人たちは、あまり楽しめないでしょう。
子供たちにとってはテンポが遅いだろうし、絵的な派手さや格好さがないし、この映画の素晴らしさは伝わりにくいかなと思いました。なので商業的に成功するかどうかはちょっと難しいところですね。
そんな中であえてお金か芸術かを天秤にかけて、芸術を選んだかのような印象すら受けて見ていて感心してしまいました。よくライバルのマーベルスタジオがじゃんじゃん金儲けに走っている今の時代にこの方向性で勝負したなぁと思いますね。
日本ではR-15指定なのに対し、アメリカでは17歳未満禁止のR指定になっているんですね。バットマン関連の映画ではR指定は初めてだそうです。
それだけ暴力描写が本格的で、十分に恐怖があるし、ホラーやスリラーのカテゴリーに入れていいでしょう。
ジョーカーの狂いっぷりはやばかったですね。これまでなんとなく悪い奴としか描かれていなかったジョーカーがいかにして奇人変人になっていったのかを説得力のあるエピソードの数々でつづっているため、不思議とジョーカーに感情移入してしまい、気づいたら彼を応援していました。
つまりジョーカーにはジョーカーなりのちゃんとした理由と動機があって、殺人を犯すようになった、というのが上手く解説されてるんですね。むしろバットマンの父親をはじめ正義側とされてきた人間のほうがずっとブラックで、あんな描かれ方されたらバットマンのファンが減っちゃうんじゃないかな、と心配になるほどでした。
フィクションなのに嘘っぽい話やご都合主義みたいな展開がなかったのが最高でした。僕がひっかかったのは、あれだけの精神疾患を抱えたジョーカーことアーサー・フレックに恋人ができる下りですね。
相手は同じアパートのビルに住むなかなかの美人黒人女性なんですが、あんなキモい奴と彼女が付き合うわけねえじゃんって思ったんですよ。
まともな精神状態にない男と幼い娘を抱えたシングルマザーのお母さんがわざわざ恋愛するかよっていうのが疑問だったんです。
でもあの二人の関係にしてもちゃんとオチがあったし、ストーリー設定はほぼ文句なしでしたね。
強いて文句を言うなら、精神病患者なのにお母さんはどうやってアーサー・フレックのことを養子にもらえたんだよっていう点ですかね。普通、審査通らないでしょ。
この映画がマーティン・スコセッシ監督の「キング・オブ・コメディ」や「タクシードライバー」からインスパイアされているのは有名な話ですが、いくつかオマージュはあれど、僕はそれほど上映中に両作品の思い起こすことはなかったです。
というか完全に「キング・オブ・コメディ」や「タクシードライバー」を超えちゃってるんで、むしろマーティン・スコセッシ監督のほうが感謝するべきじゃないかなと思いましたね。
ここまでの完成度に仕上げた立役者はトッド・フィリップス監督はもちろん、間違いなくホアキン・フェニックスの怪演によるものでしょう。
ジョーカー役といえば、よく「ダークナイト」のヒース・レジャーが話題に出ますが、ホアキン・フェニックスの今回のパフォーマンスはその比じゃないです。
一言でいうと、キモいんですよ。最高に気持ち悪いんです。あの気持ち悪さはなかなか出せるもんじゃないですよ。
動きがキモいとか、表情がキモいとか、いろいろあるけど、まずびっくりしたのは体の気持ち悪さですね。
ただ痩せてるだけじゃなく、一目で不健康だと分かる、奇形な体を創り出しているんですよ。あれすごいな。
走り方も独特だったし、笑いの発作もリアルだったし、むせながら笑うっていう高度なテクニックには脱帽しました。
ホアキン・フェニックスって作品に恵まれない俳優という印象が強かったけど、今回は文句なしのキャリア最高のパフォーマンスでした。
普段映画に対して続編を作って欲しいって思わないんですが、これに関してはぜひ作ってもらいたいですね。ホアキン・フェニックスのジョーカーがもっと見たいわ。
なんだか今日はアメコミ映画を褒め過ぎたせいで調子が狂ってきました。もうこれぐらいにしておきます。
コメント
バットマン映画は大好きですが、寧ろ大好きだからこそこの映画は最高であると思います。
ジョーカーが原作でバットマンとはコインの裏と表の関係って言ってるのですが、今回はその台詞を究極に突き詰めまくった作品だと思いました。
僕はバットマンシリーズは特に好きじゃないんですが、この映画は素直に楽しめました。確かにバットマンとジョーカーの表裏一体の関係が鋭く描かれていましたね。
まだ、映画も記事も読んでないんですが、
この映画、 映画館で観るべきですか?それとも配信されるまで待った方がよさそうですか?
いい映画なんで、映画館で見ても損はないと思いますよ。
映画としては文句無しに素晴らしいですが
バットマン原作の実写作品としては0点だと思うんです
何故ならこの作品は元々バットマン関係無くて
アメコミ原作じゃないと映画企画が通らなかったって事で
オリジナル脚本にバットマン原作の皮を被せただけなんですよ
だからジョーカーもウェイン家もゴッサムシティも それである必要が無い
最初からバットマン無関係のオリジナル作品として一貫させて欲しかったですね
バットマン原作でやってしまのが非常に勿体無い
僕は逆にこの映画のおかげでアメコミ映画に新しい可能性を感じました。現実感のあるストーリーとアメコミの融合がすごいと思いました。
そういや、80年代のバットマン映画4部作はご覧になったことありますか?
2作目のバットマンビギンズあたりが気にいると思います。
昔見ましたが、全く覚えてないですね。
とてつもなく退屈な映画だと感じました。
まず、テンポが悪すぎると感じました。ジョーカーの狂気がどう生まれたのかという部分を描きたかったのだと思いますが、とにかく展開がなさすぎたと思います。あとスローモーション使いすぎてて後半笑っちゃいました。ダレすぎてる。
次に、私自身のジョーカー像と合わなかった点です。これは自分が変に期待してしまっていたのがいけないのかと思いますが…どうしてもダークナイトのジョーカーと比べてしまいます。今回のジョーカーは起こした全ての殺人が衝動的なものですよね。しかも最後は正論叩きつけられて。そういう部分がジョーカーの魅力じゃないんじゃないか、って思ってしまったんですよね。オリジンとしてはいいのかもしれないけど…。その上トーマスには手出さないし。
ただ、ホアキンフェニックスの演技はピカイチでしたね。
ただ映画としてずーっとつまらなく感じました。私がおかしいだけなんですかねー?
僕は楽しめましたが、退屈に感じる人もいるだろうなあ、と見ていて思いました。従来のアメコミやハリウッド映画のテンポを求めちゃうとスローに感じるでしょうね。やはり見どころはホアキン・フェニックスの演技だと思うので、どれだけ彼にのめり込めるかどうかもポイントだと思います。
スローテンポが気になってしまいましたが、それは僕が最近のハイテンポな映画に慣れすぎているからかもしれませんね。
ホアキン・ジョーカーはまた見たいですね!
リアルでアートな路線のアメコミ映画の、新しい潮流が生まれてくれることに期待できる映画でした。
いつも映画感想を見させてもらっています。これからも頑張ってください。
コメントありがとうございます。みなさんやはりスローなテンポがひっかかったみたいですね。僕もアート路線のアメコミ映画ならこれからもどんどん見たいです。
いつも楽しく拝見してます。
仰るように、アメコミの雰囲気と芸術路線をうまくマッチさせた傑作でした。
ホアキンって演技が上手すぎて、却って演技力を感じないタイプの俳優と感じていますが、今作は思いっきり狂ったキャラであるため存在感がありました。
(“her 世界で一つの彼女”では、あまりに自然体に気持ち悪かったので、イメージダウンしてしまいました笑)
今作でホアキンの株は持ち上がるでしょうし、ホアキンのジョーカーを続けてほしいものですね。
来年のアカデミー賞はホアキンが獲りそうですね。僕も彼のジョーカーシリーズがもっと見たいです。
3人を駅で銃殺して公衆トイレに逃げ込んだ後、なぜアーサーはダンスをしたのだと思いましたか?
あのシーンはパントマイムの神様マルセル・マルソーをモチーフにしているそうです。特にマスクメイカーという彼の作品では、マスクをかぶった主人公が様々なマスクを試しているうちに、笑ったマスクをかぶると脱げなくなり、笑った顔のままになってしまうというストーリーになっていて、それがジョーカーと重なる部分があるかと考えられますね。あと単純に、人を殺して自分のダーク部分を解放した喜びを踊りで表現したということじゃないでしょうか。
ご返信ありがとうございます。
今まで映画をライトな楽しみ方しかしていませんでしたが、
貴方のお陰でオマージュのもととなった作品や社会時事に理解が深いとより一層楽しめると分かりました。
非常にためになりました。
アーサーが犯罪者になったのは、アメリカ社会のせいで日本だったらあそこまで狂わなかったと思うので本当にかわいそうだなと思いました。
日本だったらバスで笑ってる人がいても「なにがおかしいのよ」とか普通の奥さんが言ったりしないし電車の酔っ払いだって絡む程度でリンチまではしない。それに精神疾患のある高齢の母親を世話する息子なんて、きっと周囲に好感を持たれる事でしょう。
お笑い芸人になったとしても、ハンディキャップがある人故に流石の吉本でもイジリは避けるだろうし、
政治家が市民にパンチ喰らわすなんてのもちょっと考えられない。
そんな感じの滅多にみれない「本当は怖いアメリカ差別社会」を目に焼き付けられた事がこの映画の醍醐味なんだと感じましたが、いかんせん後味が悪くて「見て良かった」みたいな感想が出てこないのがなんとも・・・かと言っても胸糞系とも違う。
確かに政治家が一般市民を殴るとかもってのほかですよね。病んでる世界だなあという気がしました。
いつもにも増して考察の薄いペラペラな感想ですね、映画だけでなくニュースや世界情勢、文化、障害などをもう少し勉強すると映画をもっと楽しめて全体的に点数が上がると思いますよ。
このブログはペラペラな感想にみんなで肉付けする事で人気が出てるからそれだと人気が無くなっちゃうか、すみません忘れてください。
ドッカンドッカンしたアクションはないけれど、しっかり画でみせてくるから、
スローペースでも全く退屈しない!!
僕もアメコミ映画の最高傑作だと確信しました。
(映画男さんとは映画の嗜好が合うなぁ…)
ところで、小児病棟で子供たちに踊ってるシーンで、拳銃落としてあたふたしてるジョーカーが可愛くてつい吹いちゃったんですけど、周りは全く笑ってなかったです。
他の人と笑いのツボがズれてる感じ、僕にもジョーカーのような素質があるかもっ?て思ったり(´-ω-`;)ゞ
確かにジョーカーあたふたしてましたね。銃を見せたらやばいっていう正常な感覚はあるんですね。
日本的に言うなら
【盗人にも三分の理あり】
ってやつですな。
表現方法は違いますが、池波正太郎の【鬼平】や【剣客商売】に通じるものがあります。
ホアキンフェニックスにぶっ飛ばされました。カッコよすぎ。気持ち悪いけど天才すぎ。あの踊りも監督からじゃなく俳優の方から生まれてきたそうだけど、ドキュメンタリーチックな撮り方してるからリアルさが半端ないっつーか刺さるってゆうか。確固たるエゴとか狂気をちゃんと俳優が持っていて、これまたクレバーな監督とエゴをぶつけ合った事でスパークした結果、これはもう芸術かよと。そんでも俳優としてやってくには、その後も壊れないでいられるくらい自我を鍛えられてる事も必要だろうし、そんな事出来る人はなかなかいないんじゃないですか?こんだけ狂気を持ちながらもそれを制御出来る俳優って、日本にもいるんだろうか?とにかく久々にいいもん見ました。
あんなレベルの俳優は日本にはいないでしょうね。ぶっ飛んでましたね。
ね。映画を正当に評価してくださっていたのが嬉しく思いました。ありがとうございましたm(_ _)m
一点だけ難を言えば、最後の民衆暴動シーンが物足りなかった。
作品のテーマ性から言うのなら、「デビルマン」のあれぐらい一線を超えて欲しかった。
民衆暴動シーンが物足りないって感じる人もいるんですね。僕はあのシーンがすごいと思っちゃいました。
観てみます。
これは必見です。
観ました。
アーサーは、誰も自分を気にしない、と言ってましたがその通りで、そこにいたら一番相手にしたくないタイプで、病気であろうがなんだろうが、完全に無視でしょう。
奇声をあげて笑ってやがったらそれこそ完全に無視。
なはずなのに、無視できずに引き込まれ、アーサーを心配し応援したくなり、応援している、これが何故なのか判らない!
アーサーが皆から受け入れられてると、
ああ!良かったじゃないか!と思う。直後に失敗するから非常にガッカリさせられる。
落ち込み、暴力を振るわれ、罠にはめられ、アーサーの抵抗の気持ちを理解し、そいつらを殺してしまえ!と思わされる。
しかし、殺してしまったあと、1人ダンスをするのをみて、なにぃ?そこで踊るのか?
と思わされる。
この辺で、やはりこいつ変じゃねえのか?と思わされる。
出生も悲惨であったことを知り、父と信じたかった願いも無残に砕かれる。
心の拠り所なし、そして世の中は、自分をヒーローとして真似る輩と、自分が憧れてたのに自分を馬鹿にして喝采を浴びる、憎いデニーロの二つになる。
自分を守らねば、と、なんとデニーロをぶっ殺す。
こちらとしては、ついに憧れのTV番組に出るというので、どうぞボロを出さないように!などと、心配と応援の気持ちで見てしまう。
リハーサルしてたみたいに拳銃で自殺するのか?
そしてしかし自殺も失敗しちまうのか?
大変にハラハラさせられる。
ところが、アーサーの本心はなるほど全然違うところにあって、自分をコケにしたデニーロを撃ち殺すことにあった。
呆気にとられた。なんてこった。
もう応援も何もない。
こいつの悩みは全て自己中であって、人を心配したり自己犠牲だのとかはない。
ただ自分を守るだけの闘いであったような。
しかし、何故そうなっていったかということと、心の内側に狂気を秘めていて、それが表に現れただけのとんでもない奴が出来上がったということがよくわかった。
バットマン父ちゃん母ちゃんが殺されるシーンは、他のバットマンシリーズの1シーンでみたのとそっくりだし、なるほどすごく上手くできていて、先読みの考えが、まあこうなるんだろ、と思う気持ちが全く働かず、引きずられて引っ張り込まれて終わってしまった、すごい映画でした。
これと比べて、アナキンスカイオーカーがあのダースベイダー卿になったのをみたとき、心情の変化が陳腐過ぎて、非常にがっかりしたのをなぜか思い出したのですが、どうでしょう?
あと、アメリカ映画は、悪い大人になってしまった理由を、全て幼児虐待を受けたからだという話にしてて、そこは、またか、と思ったのですがどうでしょう?
スターウォーズのクライマックスと比べちゃうと、全く別ジャンルの作品なのでなんともいえないです。ラストのジョーカーの行動を彼のつらい過去を使って正当化していると捉える人もいるみたいですね。僕は特になんとも思わなかったかなぁ。ただ一つのストーリーとして上手くまとめたなあという印象を受けました。