終始マジで、特になんてことのない青春もの。一言でいうと、みんなで高校辞めようぜっていう話です。52点(100点満点)
僕たちは希望という名の列車に乗ったのあらすじ
1956年のベルリン。ベルリンの壁がまだ建設されていなかった当時、東ドイツと西ドイツの国境は開かれていた。
そんなある日、ハンガリーではソビエト連邦の支配に対する民衆の怒りが爆発するハンガリー動乱が起き、多くの犠牲者を出していた。
そのことをたまたま西ドイツの映画に行ったときに知ったテオとカートは東ドイツに戻ると、クラスメイトたちを巻き込んで、授業中にハンガリー人に哀悼の意を込めて黙とうしようと提案する。
しかしいざ授業中に黙とうをすると、教師は何事かと大騒ぎし、学校中で社会主義国家への謀反として問題になり、やがて教育委員会や教育相まで介入することになる。
僕たちは希望という名の列車に乗ったのキャスト
- レオナルド・シャイヒャー
- トム・グラメンツ
- ヨナス・ダスラー
- ロナルト・ツェアフェルト
- ブルクハルト・クラウスナー
僕たちは希望という名の列車に乗ったの感想と評価
「アイヒマンを追え」のラース・クラウメ監督による政治学園青春ドラマ。ノンフィクション本を基にした実話ベースの映画です。
「いまを生きる」をドイツ風にして政治色を強くした感じの作品で、高校生たちが良かれと思ってやった行動が政治的問題に発展し、やがて頭の固い教育者たちに圧力をかけられ、自分たちの信念と学校生活を天秤にかけていく様子を描いていきます。
舞台は第二次世界大戦後の東ドイツで、ナチスドイツではないものの、まだその名残を感じさせます。
そこにはゴリゴリの社会主義国家として体制批判的な学生を弾圧していた時代背景があり、そんな時代の中、フェイクニュースや情報操作に踊らされながらも、自分たちの信じる道を生きようとする若者たちの姿があります。
感受性の強い高校生たちは、ハンガリーで多数の犠牲者を出した暴動に心を痛め、強いシンパシーを覚えていきます。
そしてそれをきっかけにノリでクラスのみんなで授業中に黙とうを捧げてしまったのが最後、反社会主義的な行動とみなされ、次々と偉い大人たちがしゃしゃり出て来ては、問題を掘り繰り返して大きくしていく、というのが話の流れです。
もとはといえば、ただの子供のいたずらのような話だったのが、頭の固い大人たちは決して軽視しません。
そんでもって誰がリーダーだ、誰のアイデアだ、誰が最初に言い出した、などと大ごとにしていくのが、どの時代も面倒くさいおっさんおばさんたちは同じだなあ、という感じがしますね。
その様子は日本の学校教育や社会にも被るところがあって決して人ごとではありませんでした。
やがて汚い大人たちは若者の友情を切り裂き、お互いにお互いを責めるようにはやしたて、さもなければ高校を退学させると脅す、という卑怯な手を使います。
程度の違いはあれど、学校生活の中で、しょうもないことで犯人捜しが始まり、自白を強要されたことのある人なら、ものすごい共感できるエピソードかもしれません。ドイツの集団主義的な思想やなんでもかんでも深刻化させる思考回路ってやはり日本と通じるものがありますよね。
物語は、終始ずるくて汚い大人VS哀れな子供、という構図を見せていき、基本的には子供たちに同情させるような描写になっていましたね。
大人たちの手口の汚さには吐き気がするうえ、見るからに話の通じなさそうな教育委員会のババアと教育大臣のジジイは、見ていて腹が立ちました。
学生時代の嫌いな先生をふと思い出してしまう、そんなキャラクターに仕上がっていたし、それぞれの俳優が素晴らしいパフォーマンスをした、といえるでしょう。
一方で学生たちがどうしてあれほどハンガリー人に同情し、思い付いたように行動に移したのかは理解に苦しみました。
あの年齢で外国人がひどい目にあってるから、みんなでなんとかしようよ、などと駆り立てられるかなぁ? 実話だそうだけど、それにしても東ドイツの若者はすごい真面目なんですね。もっとアホでもいいのに。恋より政治に夢中って高校生らしくないじゃん。
見どころは、教育委員会のババアから、リーダーの名前を挙げるか、それとも退学するかの二択をせまられる下りでしょう。
学生たちの行動はなんとも映画的だし、すごく「いまを生きる」っぽかっですよね。オマージュと言ってもいいんじゃないかな。あれにじんと来ちゃう人がいても不思議ではないけど。
それにしても将来に不安を抱える高校生たちに、学校を続けたければ~しろと言って自分たちの命令に従わせようとする大人のやり方はずるいよなぁ。
ずるい大人に従うことは簡単なんだけど、人間としての自尊心を試されているかのような瞬間は確かにあって、ラストの高校生たちはそれぞれ自分のフィーリングに従ったのでしょう。
そしてまたそういう瞬間の決断は意外と大人になっても変わらない部分だったりするからバカにできないです。
高校を卒業するよりも人間としてもっと大事なことがあるよ、というメッセージが彼らの決断に込められているにも思えました。
僕も高校の先生と揉めたことがきっかけで中退しているので、もしかしたら普段よりこの映画のことを甘く採点しているかもしれません。
冷静に考えると、そんなに見せ場もないし、面白いわけでもないのに最後まで見れちゃいましたね。つまるところ学校中退者に響く映画なのかも。
コメント
首謀者探しの執拗な下りも、同じ体制下にあるハンガリーの若者に対する共感も、結局は西側国家の国民である日本人には理解する事は難しいのかもしれませんね。
現代の我々からしたら滑稽に写りますが、それをクソ真面目に遂行していた東独という国の不自然さが表れていてなかなか好みでありました。
あの頃の大学に進学希望するドイツ人は基本的にインテリ層ですから、政治に対し多少思う所があるというのはそうおかしくもないと思います。
そもそもそこまで入れ込んでやった訳でもない事が、結果として亡命に至る所がキモなんじゃないかな。
壁が出来る前、まだ東西の行き来が可能な時代の作品も珍しい気がしますので、そういう点でも好みの映画でした。
ただいかんせん地味ですね。ドイツ映画って感じです。
当時の時代性と雰囲気は日本人に理解するには難しいかもです。
お約束のストーリーではありましたが、冷戦後の東ドイツに生きる若者、特に賢い子達は賢いが故に自分達の置かれている立場、国や自分の将来に疑問や不安を覚えただろうなと思います。
そして、テオらの行動もエリックの行動も、はたまた彼らの父親の行動も生きる為の苦渋の選択であったであろうことは間違いなく、それに対して片方だけが悪い、勇気がないと糾弾はできない気がしました。
当局がやっている事は結局ヒトラーがやっていた事と何も変わってないですよね。
学生が黙祷しただけで反対勢力だと恐れ騒ぎ首謀者探しに躍起になる。こんな事に時間を割いていたようじゃ西より遅れを取るわけです。