盲目の両親を持つ3歳の子供ビラルを追うインドのドキュメンタリー。やんちゃなビラルを通じてビラルの両親、弟、親戚、そして彼らを取り囲むインドの貧困層の人々の生活を映し出す貴重な一本。65点(100点満点)
ビラルの世界のあらすじ
狭い路地が入り組むインド・コルカタのスラム街、3歳の男の子ビラルは目が不自由な両親と幼い弟と暮らしている。目の見えない両親の手足となったり、弟ハムザをいじめてはお仕置きされたりするわんぱくな日々。両親はさまざまな困難や障害に屈することなく、近所の人たちに支えられながら二人の息子を愛情深く育ててきた。そんな一家の日常を丹念に映し出していく。
(シネマトゥディより)
ビラルの世界の感想
多くの人にとって神秘かつ未知の世界であるインドの生活を追うだけでも十分ですが、さらに盲目の夫婦、そして彼らの元ですくすく育っていくわんぱくな少年にカメラを向けるというのが新鮮です。
狭くてうす暗く、ネズミが床を這う家で家族4人でぎゅうぎゅうになって生活している様子はまず日本の生活とはかけ離れたもので、文化や生活習慣の違いに驚かされますね。
ビラルやビラルの弟は平気でベッドの上で小便や大便をしたりします。まずオムツなどというものを使っていないのです。そして盲目のお母さんが何事もなかったかのようにベッドを雑巾でさっと拭き、それで解決です。
ビラルの両親は基本的に息子たちを叩いて躾をします。勉強を教えてても子供が顔をそらしたら容赦なくビンタが飛びます。しかしビラルも慣れたもので、ビンタぐらいでは表情をほとんど変えずケロッとしているのです。あるシーンで親戚だか友人だかがビラルのお母さんにこう言います。
「子供を叩いてはいけないよ」
すると、ビラルの母は、「どこの家庭だって子供ぐらい叩くわよ。悪いことしたらちゃんと罰を与えないといけないのよ」と、言い返していました。
また、自分の息子たちが余所の子供と喧嘩をしたら容赦なく親たちが介入します。
「うちの子供になにしてくれんのよ」
「私たちは隣人同士なんでしょ、それとも敵なのかい?」
親同士が子供の喧嘩でそんな言い合いを繰り広げます。こういった一連のやりとりを見ていると、ふと懐かしい気持ちにさせられます。
日本も昔はこうだったんじゃないのか、という懐かしさなのか、あるいは単純に彼らの持つ人間らしさに対する感心なのかはよく分かりませんが、なんか心が落ち付きました。
この映画が「幸せの経済学」や「未来を写した子どもたち」などのエセドキュメンタリーと大きく違うのは監督が自分の意見を必要以上に挟まないことです。
「ビラルの両親は貧しくて盲目ですが、かわいい子供たちにも恵まれて幸せなんですよ」的なコメントをしないところに好感が持てました。ただ淡々と撮る。それでいいじゃないか、と。
この映画の中で ビラルのお母さんが言った一言が印象に残りました。
「目が見えないほうが見えるよりよっぽどいい。目が見えなければ、汚いものを見なくて済むから」
あれは盲目のお母さんの精一杯の強がりなんでしょうか。それとも本心なのか。また、こうも言っていました。
「目が見えない者同士で生きるのはなんの問題もない。問題は(盲目の自分たちが)目が見える人間と生きることよ」
なんかいいなあ、この言葉。
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