67点(100点満点)
映画思秋期のあらすじ
失業中のジョセフ(ピーター・ミュラン)は、酒浸りの上に感情の抑制が利かない中年男。酒に酔っては周囲の人々とトラブルを起こすという、怒りと暴力ばかりの毎日に精神を疲弊させていた。
そんなある日、ひょんなことから彼はチャリティー・ショップの女性店員ハンナ(オリヴィア・コールマン)と知り合う。朗らかで機知に富んだ彼女と接することで、今まで感じることのなかった平穏な気持ちを持てるようになるジョセフ。次第に交流を重ねて固い絆を育むようになる二人だったが、ハンナが抱えるある秘密をめぐる事件が起きてしまう。
シネマトゥディより
映画思秋期の感想
パディ・コンシダイン監督による、あらゆるトラブルを抱えた男女の重苦しい人間ドラマ。イギリス映画特有のリアリティー溢れる演出、演技が冴え、最後まで何が起こるか分からない緊張感がよくトラブルがトラブルを呼ぶ負の連鎖が上手く描かれていました。
完成度が高く、ストーリーが息苦しいだけに、救いのない、暗い、ネガティブな後味を残す映画でした。
主人公ジョセフのようなトラブルメーカーが災難に遇うのは自業自得でもハンナのような心優しい人間が不運から抜け出せないのには胸が痛かったです。
終始この映画は「平穏」とは無縁に話が進んでいくため、日本で見る人は特に「日本は平和でよかったよかった」などといった感想を持ちそうです。
暴力やトラブル続きの毎日を送っている人と平和にのほほんと暮らしている人の違いは一体何なのかということを最近良く考えます。
まず、経済状況が重要な要素であることには間違いないでしょう。イギリスも階級社会だからジョセフのような下層階級の生活圏にはそれこそ酔っ払い、麻薬中毒者、ギャング、チンピラ、泥棒、売春婦、失業者などが入り乱れ、自然とトラブルが起きやすい環境ができるのだと想像します。
僕の職場にはブラジルの下層階級の人達が大勢働いているんですが、やはり彼らの周囲でもトラブルは日常茶飯事です。
最近では同僚の息子さんが行方不明になり、10日後に死体で発見される事件がありました。息子さんはナイフで複数回刺されて死亡したそうです。
こういった事件を目の当たりにする度に、この映画で上手く描かれている「負のスパイラル」について考えずにはいられなくなります。
果たして一度踏み込んだアリ地獄から抜け出す方法はあるのか、と。生まれたときからマイナスからのスタートだったらプラスにのし上がれるのか。そして明日は我が身、という気持ちが常にあって、自分ももしや気づいていないだけですでにずっぼり負の世界に迷い込んでいるのではないか、という思いが頭をよぎることもあります。
こうして映画についてぶつくさ文句ばかり言ってるのがなによりの証拠だ、なんつってね。
もちろん災難に見舞われるのは経済状況だけが原因ではありません。この映画の主人公ジョセフが下層階級であるのに対し、ハンナは閑静な住宅街に住む中流階級、もしくはそれ以上の生活を送っていました。
それでもトラブルはある。経済の状態は悪くないのに、旦那の精神状態が最悪で、それが彼女にとっては、全ての問題の根源となっていました。ただハンナの場合は、旦那との関係があそこまで悪化する前に逃げ道があったんではないのか、という気はしましたね。
とにかく色々考えさせられる映画でしたね。見終わってから「ああ、面白かった」と素直に言えるタイプの映画ではないので、人にあまり勧めることはできません。映画通の顔をして「この映画、サンダンス映画祭で賞獲ってるんだよ」などといって彼女や彼氏を誘うのも厳禁です。映画館を出たらどちらかが必ずや「今日は帰る」と言い出すでしょう。
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