脚本と演技とキャスティングがはまりにはまっている葬式コント風家族物語。もっと話題になっていないとおかしい良作です。70点(100点満点)
blank13のあらすじ
ギャンブルに溺れ、借金を残して蒸発し、13年間音信不通だった父が余命3か月で見つかった。母と兄は見舞いを拒否したが、コウジは子供の頃キャッチボールをしてくれた優しい父を思い、入院先を訪ねる。
しかし金を工面している父の姿に失望し、家族の溝は埋まらないまま、父はこの世を去った。葬式に参列するのは、数少ない友人たち。彼らが語る父のエピソードによってコウジは家族の誰も知らなかった父の真実を知り、13年間の空白が少しずつ埋まっていく……。
公式サイトより
blank13の感想
放送作家のはしもとこうじの実体験をもとに俳優の斎藤工が「齊藤工」名義で監督した家族ドラマ。芸術性あり、笑いあり、ちょっと感動ありのセンス溢れる作品で、完成度の高さにビビりました。
齊藤工って誰だろうと思っていたら俳優の斎藤工だったんですね。そうです、あの「昼顔」の齊藤工ですよ。
僕はそれを知らずに見たので何の偏見も、抵抗もなく見れたし、はっきり言って素晴らしい出来でした。ぜひこれからも監督業続けるべきです。
物語は、ギャンブル狂いの父親が借金を抱えたまま家を出て行ったきり帰ってこなくなった様子を二人の息子目線で描いていきます。
父親が家にいたときは借金取りが毎晩のように家に催促に来ては怒鳴り散らしていくのを家族がただ居留守を使って耐えるだけの毎日です。
いざ父親が蒸発すると、今度は母親が朝から晩まで働き、兄弟も母の仕事を手伝いながらなんとか生き伸びていくという日々。
そして13年ぶりに消息が掴めた父親は末期がんで余命僅かでした。父親に対して恨みと憎しみしかなかった兄弟は、父親が亡くなるそれぞれ複雑な気持ちを抱えて葬式をあげる、という筋書になっています。
タイトルのblank13とは何のことなのかなあと思ったら「空白の13年間」を指しているんですね。僕もダメ親父と15年ぐらい会わなかった時期があるので物語がとても他人事には思えませんでした。ただ、そういう個人的な感情移入を除いてもいい映画だったと思います。
まず、映像がきれいですね。写真をやっていたのかな?っていうぐらい芸術写真のような絵と色合いがとても良く、ワンシーンワンシーン凝ってるのが分かります。
そこに心地よい音楽を乗せて、最小限のセリフでストーリーを伝えていきます。最初の20分ぐらいはまるでCMのような流れでしたね。少ない情報量の中で要点だけ視聴者に届けているところに好感が持てました。
それもわずか70分で完結するのでダレることなく、話が終わるのがいいです。かといって満足感が薄いかというとそうでもないし、何から何まではまっていました。70分映画流行らないかなぁ。これからはダラダラ長尺でやるんじゃなく、短くスパッと終わるほうが時代に絶対合ってると思うんですよね。視聴者もどんどんせっかちになってきていることだし。
最大の見せ場は葬式のシーンでしょう。あれは完全にコントでしたね。それも上質のコントでした。葬式コントって色々な芸人がやってるけど、映画であそこまで仕上がってるのは初めて見たかも。
まず、お坊さんが葬式の参列者に無茶ぶりするんですよ。では今からここで故人との思い出をみなさん順番に語ってくださいとか言い出して。無茶ぶりというより、ほぼ暴力に近いですよね。
そのシーンで大活躍を見せるのは、こちらの俳優、佐藤二朗。
赤の他人同士が集まった葬式を親族でもないのになぜか仕切り出す、うざキャラが最高でした。「やれたかも委員会」にも出てたけど、この人上手いですねぇ。僕にとってこの映画の主役は彼でしたね。
葬式の下りは、登場人物たちが散々ボケ倒して、ちょっと引っ張りすぎな感じもしましたが、最後にしんみりした音楽を流して一度はコメディーになった雰囲気を家族ドラマのマジな雰囲気に一瞬で戻します。
笑いと感動のバランスの保ち方といい、音楽の使い方といい、センスの塊かよ。ただのイケメン俳優っていうイメージしかなかったけど、斎藤工の才能には驚かされました。お見事。
コメント
リリーフランキーは情け無いクズ親父をやらせたら右に出る者はいないなって思います。意味なく隣の寺の立派な葬式がちょいちょい差し込まれてて対比が面白かったです。
私、以前葬儀会社にいたんですが、立派なお葬式って作法も挨拶も形式的なのであまり記憶に残らなくて、こういう好き勝手やってるような方がいつまでも覚えてますね。
昔はお通夜が家族のための儀式で、告別式は社会的な関係の人との別れの儀式だったそうで、故人の家の外での姿を知れる大事な機会だったんです。今は家族葬が主流なんでちょっと残念だな。お葬式をちゃんと描いた映画ってドラマがあって面白いのでもっと沢山出て欲しいです。
これ短いけどうまくまとまったいい映画ですよね。