素敵なBGMをバックにおじいちゃんがゆっくりゆっくりマイペースで旅を続ける様子をつづった、ちょっといい話。見ると旅に出たくなる、そんな映画です。79点(100点満点)
ストレイト・ストーリーのあらすじ
アルヴィン・ストレイトは娘のローズと暮らす73歳の老人。彼は不摂生のためか腰が悪く、家で倒れても人の力を借りなければ立ち上がることもままならない。
ある日、若い頃からの不和が原因で長年会っていなかった兄が倒れたという知らせが届く。兄が住む家までの距離は350マイル(約560km)。アルヴィンは芝刈り機に乗り一人で無謀とも言える旅に出た。
芝刈り機の故障など、道中で様々な困難にあう。旅で出会う人々は彼を奇妙に思いながらも、ある者は助けを惜しまず、ある者は諮詢に満ちたその老人の言葉を得る。
wikipediaより
読者のmaimoiさんのリクエストです。ありがとうございます。
ストレイト・ストーリーの感想
「インランド・エンパイア」、「マルホランド・ドライブ」、「ツインピークス the Return」などで知られるデヴィッド・リンチ監督による、おじいちゃんが芝刈り機で旅をする癒し系ロードムービー。
物語は、目が悪く、自動車免許も持っていないおじいちゃんが遠く町に住む兄の家まで何週間もかけて芝刈り機でハイウェイを進んでいく様子を描いていきます。
実話を共にしたリアリティー路線のハートフルドラマで、不可解なシーンもなければ、気持ち悪い人も出てこない、カルト映画の帝王デヴィッド・リンチらしくならぬ作品です。
らしくはないんだけど、デヴィッド・リンチにはコメディタッチの心温まる人間ドラマを描くほうがむしろ合ってるんじゃないのかなぁ、と思わせるほど、いい話に仕上がっています。僕の中では一番好きなデヴィッド・リンチの作品ですね。
登場人物たちはみんな嫌味がなく優しくて協力的な人ばかり。そんな人たちのおかげでアルヴィンの孤独なはずの旅が素敵な経験になっているのがいいですね。
脚本が非常に優れています。ダメなハリウッド映画だと、わざとらしくファンキーで口の悪いおじいちゃんのエピソードとかを混ぜてくるんですが、そういうベタな演出は一切していません。
主人公のアルヴィンは物静かで、控えめで、旅路で出会う人々とも自然な距離を取りながら接していて、なおかつぼそっとユーモア溢れることを言うので、見ていて微笑ましくなりました。
カメラは基本アルヴィン一人をずっと追いかけているんだけど、彼に関わる人々の背景をしっかり取り上げていて、ひとつひとつのエピソードが人間味があっていいですね。
妊娠して家を飛び出してきた少女。いつも鹿を轢いてしまう運転手。自分の庭を提供し、アルヴィンを助けようとする主人。どもり症の娘など、みんなどこか寂しさを抱えているように見える一方でアルヴィンのキャラに惹かれてか、彼のことを放っておけなくなり、手を貸したくなると同時に彼に癒しを求めて集まってくるようなところが面白いですね。実は助けているのはアルヴィンのほうだったりして。
突っ込みどころといえば、もういいからバスか飛行機使おうよっていうところに集約されます。だって体が弱っていて目も悪いヨボヨボのおじいちゃんが芝刈り機で運転している姿が大変そうで仕方ないんだもん。あんなのに何時間も乗ってたらお尻や腰が絶対痛くなるでしょ。
でも旅のテーマが「自分の力で目的地まで行く」というのだったらもう誰がなんて言ってもしょうがないですよね。いわば自転車で日本一周するとかと同じ志です。
アルヴィンも頑なに自分のルールを守り、送っていくよという誘いには一切乗らず、人との出会いを感謝しながら、ただひたすら自分のやり方で兄のいる家を目指していました。
あれは彼なりの兄に対する懺悔だったんでしょうか。あるいは兄弟の関係性をゆっくり見つめなおすいい時間だったのかもしれませんね。いずれにしても70過ぎてあの旅ができるなんて若いですね。
アルヴィンじいさんがまたちょくちょく名言を吐くんですよ。それもドヤっていいことを言うんじゃなくて、誰かに聞かれたらボソっというみたいな感じでね。
キャンプ場で若者から歳を取ることのデメリットを聞かれたときにはこう答えていました。
「The worst part of being old is remembering when you were young. 歳を取るうえで一番嫌なのは若い頃を思い出すことだ」
妻に先立たれ、兄とも疎遠になり、視力が落ち、体がいうことを聞かなくなった今、 若いころはああだったこうだったと思い出すのはさぞかしつらいのでしょうね。
歳を取ると人間は成熟して、より深みが出るんだよ!とか嘘っぽいことを言わないところが好きです。
今回久々にこの映画を見直してみましたが、感動しちゃいました。なんか無性に旅がしたくなってきたので世界遺産でも見にマチュピチュでも行ってこようかなあ。
コメント
「ストレイト・ストーリー」今まで観た中で、
ベスト3に入る映画です。
アルヴィンの含蓄のある言葉に泣けます。
世の中優しいなあ、と思える映画です。
ラストも大好きです。
いいですよね、これ。
この映画、面白いですよね。
片田舎が好きなある意味、デヴィット・リンチらしい映画と感じました。
基本、あの人の映画ってアメリカの片田舎がよく出てくるので
確かにデヴィット・リンチは田舎を舞台にしますね。
映画男さま
リクエストにお答えいただき有難うございます。昔、職場で尖っていた上司が、この映画が好きだというのを知って、
実は心優しい人なのかなぁと思いました。
リクエスト&コメントありがとうございます。尖った人ほど、こういうのにうるっときちゃうのかもしれませんね。
すみません。またコメントしてしまいました。この映画も素敵だったので。
映画男さんのおっしゃるとおり、歳をとっての名言だけで終わってないのが良かったです。
歳をとることはつらいことだし、悲しみや苦しみもちゃんとあるんですよね。
こういう感覚って大事ですよね。嘘っぽくない。
少したそがれっぽいアメリカの田園風景が素敵でした。
高得点の作品、たくさん見てくれてますねー。ありがとうございます。田舎の風景いいですよねー。
個人的に枝の喩えのくだりが大好きで、あそこだけでこの作品に惹き込まれるぐらいの魅力がありました。
いい歳になってからまた見直したい、と思わせるような名作です。