じんわり胸に込み上げてくる大人向け学園映画。大きなドラマもなければ、わざとらしい感動を誘うこともせず、衝撃の秘密が明かされることもなく、淡々とストーリーが進み、そのまま幕を閉じる良質の一本。71点(100点満点)
ぼくたちのムッシュ・ラザールのあらすじ
モントリオールの小学校で、担任の女性教師が教室で亡くなり、生徒たちは動揺を隠せずにいた。そんな中、アルジェリア出身の中年男性バシール・ラザール (モハメッド・フェラッグ)が教員として採用される。ラザールの指導方法は風変わりであったが、常に真剣に向き合う彼に生徒たちは、少しずつ打ち解けてい く。一方、ラザール自身も心に深い傷を抱えており……。
(シネマトゥディより)
ぼくたちのムッシュ・ラザールの感想
「グッド・ライ ~いちばん優しい嘘~」のフィリップ・ファラルドー監督による、先生と生徒のちょっといい話。
「ねえ、あの人はなんで死んだのぉ? 結局、あの子供が犯人だったのぉ? だって映画の中でなんの説明もないから分かんなーい」などと全てに答えを求める女(男の場合もあるけれど)は絶対に見てはいけない作品で、どこか視聴者の感性を作り手が査定しているような作品です。
アホなアメリカ映画だったら、ストーリーの中に必ず恋愛の要素がどこかに入ってくるでしょう。だけどこの映画では、「もしかしたらあの二人、恋するのかなあ」と思わせておくだけで、特別そこを掘り下げようとはしません。目の前の問題に必死に向き合っている大人たちにそんな暇はないのです。
主人公のバシール先生は頑なに自分の過去やアルジェリアについて語ることを嫌がります。同僚が生徒に自分の国の話をしてあげなよ、と勧めるものの、それは 考えられないと首を振ります。
それは難民として危険な祖国から逃れてきたばかりで、その間に家族を悲劇的に失い、とても人に語る気になれない、たとえ語っ たとしてもほとんど理解されないことを自分で良く分かっているからです。
母国とまるっきり状況が違う外国に来ると、母国での自分の体験が異次元すぎて、まるっきりお話にならないことがよくあります。
そしてそんな異次元な場所から来た外国人だったからこそバシール先生は、他の先生にはない部分が子供たちから 受け入れられ、逆に大人たちからは拒絶されたのです。学園映画である一方で実は薄っすらと移民問題をからめてるのがニクイです。
先生と生徒たちの距離間もとても現代的で自然でした。生徒を叩いてはダメ、ハグしてはダメ、精神的なことを語りあうのは担任の仕事ではなく”プロ”のカウンセラーの役目。スキンシップもなければ、本気で怒られることもないから、生徒と先生の間には信頼感がなく、教師はただ授業を教えるだけの人というのが見 ていてムズムズしてきます。それは今の日本の学校の状況にも同じようなことが言えるかもしれません。
僕が小学校のときには病気で長期休暇を取った担任に代わって、臨時の20代の若い男の先生がやって来ましたが、その先生には友達数人で先生の車で家に連れて行ってもらい、車内でみんなで尾崎豊を熱唱し、その後無理を言ってアダルトビデオを先生に借りてもらい、みんなで鑑賞したという良い思い出があります。
道徳的には間違っているだろうけれど、あのとき確かに一人の先生と、一人の大人と触れ合ったという温かみがいまだに残っています。
この映画の中では、ただシステマチックに授業をこなし、機械的に学校生活を終えていくなかでも教師とごく特定の生徒に一種の友情や愛情が芽生えます。
普段、規制やルールに抑えられているからこそ、その中で生まれる感情に人間性が強調されていてとても美しかったです。 いいじゃん、いいじゃん、ハグしちゃえよ、と思いました。先生にも好きな生徒、苦手な生徒がいたっていいじゃんかと。だからこそラストはグッときました。
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