映画としての完成度は低いけど、不快感やゾクゾク感といった変な感情を揺さぶられる作品。40点(100点満点)
孤高の遠吠のあらすじ
ユヅキ、カミオ、リョータ、ショーヤは、不良の先輩から原チャリを購入したことで富士宮の不良の世界に引きずり込まれてしまう。
拉致やリンチ、監禁、抗争が横行する地獄のような世界で、ひどい扱いを受ける羽目に。暴走族や前科100犯を超える窃盗団など、凶暴な先輩軍団に翻弄(ほんろう)される彼らの運命は……
シネマトゥデイより
孤高の遠吠の感想
「全員死刑」で知られる小林勇貴監督による、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭でグランプリを受賞したバイオレンス不良群像劇。
静岡県富士宮市を舞台に地元の不良を起用して撮った暴力と犯罪の世界に生きる若者を追った自主製作の作品です。
年下のやんちゃ少年たちが悪い先輩たちからバイクを買おうとしたのをきっかけに不良の世界に引きずり込まれてはずっぽりはまっていく様子を圧倒的なリアリティーと共に描いています。
ここでいうリアリティーとは演技が自然だとか、映像がリアルだとか、クオリティーの高さから来るリアリティーではなく、出演者たちが放つ異様な雰囲気や危険なオーラから来るものです。
不良の特徴をよく捉えていて、こういう奴いるよなぁっていう輩ばかり登場するので、学生時代の怖い先輩の顔をついつい思い出してしまう、そんな内容です。
フィクションの映画というより「警察24時」を見ているような感覚になりますね。警察24時のようなドキュメンタリーって犯罪の瞬間ばかりを捉えているもんだから見ているとまるで世の中には犯罪者しかいなのかよって思ってヘトヘトになるじゃないですか。あれと同じ感覚。
だから見ていて決して面白いとか気持ちのいい映画じゃないです。娯楽性やドラマ性は低く、延々と暴力の連鎖が続いていくだけなので退屈に感じる人も少なくないでしょう。
最も好き嫌いが分れるのは演技の部分に違いないです。確かに素人演技だから滑舌は悪いし、殴り合いではパンチが当ってなさすぎて滑稽に映るシーンも多いです。
ただ、演技の下手な素人と演技の下手なプロだったら僕は演技の下手な素人のほうが好感が持てるんですよ。顔の知らない俳優が出ているだけで新鮮味があるし、先入観なく見れるから。
不良映画を撮るときに演技のできない本物の不良と演技の上手い偽物の不良のどっちを使うべきなのかで監督は後者を選んだのでしょう。
そのおかげで強烈な個性が出ていて小林勇貴監督しか取れない映画に仕上がっているのは否定できないです。
何かと制約だ、クレームだ、コンプライアンスだ、と表現の幅が狭まっていくこの時代に手彫りで刺青を入れたり、改造バイクで集団暴走したり、といったことをときにゲリラ的に撮影しているのもすごいですね。
若者が自主製作で撮影した素人っぽさだけじゃなく、強いこだわりを感じさせるのがいいです。
それにしてもこの映画を撮ったとき小林勇貴監督は24歳だって。そんな若いときに自分でお金を出して、仲間を集めて一本の映画にまとめたというのは恐ろしい行動力と実行力ですね。
自主製作や低予算で映画を撮るのも一つのスタイルですが、もし小林勇貴監督が「製作費はいくらかかってもいいから最高の映画を撮ってくれ」と太っ腹のスポンサーからいわれたら、どんな映画を撮るのかなぁ。
今後はどんどん商業映画も撮るようになるだろうから全体のクオリティーを上げていけばすごいものが出来上がるかもしれません。
あるいは大金や大企業が間に入ると、誰が撮ってもやはり平凡な作品になっていくのでしょうか。いずれにしても小林勇貴監督に注目です。
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