家族のエゴと欲望を描いたリアルでちょっと面白い人間ドラマ。後半からじわじわと面白くなっていくスロースターターです。55点(100点満点)
母という名の女のあらすじ
海辺の家に姉妹で暮らす17歳のヴァレリア(アナ・バレリア・ベセリル)と姉のクララ(ホアナ・ラレキ)。クララは妊娠中のヴァレリアのために、疎遠になっていた母アブリル(エマ・スアレス)を呼び寄せる。アブリルは娘たちやお腹の子の父親マテオ(エンリケ・アリソン)と徐々に打ち解けるが、生まれた女の子の世話をしているうちに独占欲が芽生え……。
シネマトゥデイより
母という名の女の感想
「父の秘密」、「或る終焉」、「ニューオーダー」などでお馴染みのミシェル・フランコ監督による大人向けドロドロ家族心理ドラマ。
10代の娘の妊娠をきっかけに家族の関係性が崩壊していく様子を描いた、リアリティー重視の淡々とした物語です。
欧州映画やミニシアター系の映画が好きな人が見る芸術路線の作品で、邦画やハリウッド映画寄りの人にはおすすめできません。
舞台となるのはメキシコのビーチリゾート地プエルト・バジャルタ。そこで姉と暮らすヴァレリアは17歳にして恋人マテオの子供を妊娠してしまいます。
親には内緒にしようと思っていたヴァレリアでしたが、姉が母親のアブリルに連絡してしまい、アブリルが姉妹のもとを訪ねにきます。
最初こそ協力的だった母親ですが、いざヴァレリアの子供が生まれると異常な執着を見せ始め、赤ん坊とヴァレリアを引き離そうとします。
まだお前には子供を育てる準備ができていないなどと言って、ついにはヴァレリアに内緒で赤ん坊を養子に出してしまい、それ以降ヴァレリアは母親と口を聞かなくなります。
部屋から閉じこもって出てこようとしないヴァレリアを尻目に母親は車を走らせ、別の街へと向かいます。
小さな家の前に車を止めた母親は、家の中へと入っていくとそこには養子に出したはずの赤ん坊がいた、、、、というのがストーリーの流れです。
一見、メキシコのように見えないのが不思議でした。登場人物は白人ばかりだし、リゾート地がメインだからか景色にメキシコ特有のゴチャゴチャ感が全然ありません。
メキシコ映画もなんだかんだ言って白人至上主義なんですよね。もっとメキシコらしさを出せばいいのにねぇ。
すっかり国際映画祭の常連となったミシェル・フランコ監督ですが、いかにも欧州映画祭向けのテンポで大袈裟な演出は一切せず、ゆっくりと話を展開させていきます。
そのせいで登場人物の思惑はなかなか伝わって来ません。しかし状況が把握しずらく、全く先が読めないながらも時間と共に登場人物の人格が徐々に表面化していく様子には快感すら覚え、物語が動き出すと急に面白くなっていきますね。
正直、前半はスローで退屈でした。しかし後半からはがっつり話に入っていけました。ちょっと引いた目線から登場人物を映し出す手法は独特でリアルです。
最初は妊娠したヴァレリアが主人公なのかと思っていたけど、これはどう見ても狂った母親が主人公ですね。
原題の「LAS HIJAS DE ABRIL」がそもそも「アブリルの娘たち」という意味だし、なかなか的を射てます。
振り返ってみると、アブリルだけじゃなく、ヴァレリアにしても母親が家にいても平気で恋人と大声を上げながら性行為をしたり、お姉ちゃんがいても裸でキッチンに現れたり、何かとずれた家族ですよね。
あれはもしかするとリゾートボケってやつですかね。浮かれた人たちの中で生活しているとあんなふうになっちゃうんでしょうか。
それにしてもアブリルは一体何がしたかったのか。娘の赤ん坊を奪い、新しい人生をスタートさせたかったのでしょうか。
離婚し、娘たちと疎遠になっていたアブリルには家族がいないも同然で孤独を感じていたとも取れそうです。失うものが何もないからなんでもよくなっちゃったのかなぁ。
それにしてもアブリルの暴走ぶりには恐怖と気味の悪さを感じちゃいます。美人で色っぽいから尚更性質が悪いです。娘より私のほうがイケテるわよとか本気で思ってそうだし。
アブリルが赤ん坊を奪うことは全く予想ができませんでしたが、若い男に走る下りはその前に伏線がありましたね。それもチラ見せの伏線だから、予想通りになったときやけに嬉しくなっちゃいます。
ラストのヴァレリアの行動も納得できたし、想像が付きました。でもあれからそれぞれは一体どうなるのかが気になりますねぇ。もっと知りたいと思うところで話が終わっちゃうっていうのもなんとも憎い演出だなぁ。
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