リアリティーが半端ないインド産裁判映画。特に面白くはないけど、インドに興味のある人は一度見ても損はないでしょう。42点(100点満点)
映画「裁き」のあらすじ
ある日、下水清掃員の死体がムンバイのマンホール内で発見され、間もなく高齢の民謡歌手カンブレ(ヴィーラー・サーティダル)が拘束される。彼の容疑はある公演で歌った曲の扇動的な内容が清掃員を自殺に追いやったというものだった。弁護士のヴォーラー(ヴィヴェーク・ゴーンバル)は何とかカンブレを救おうと奔走する。
シネマトゥデイより
映画「裁き」の感想
チャイタニヤ・タームハネー監督によるインドの法廷ドラマ。汚職、職権乱用、差別、偏見が当たり前の環境で巻き起こる平等や公正とはほど遠い裁判劇です。
物語は、警察に目の仇にされている歌手のカンブレが公演で客の前で歌を歌ったことによって、自殺幇助の容疑で逮捕され、不当に身柄を拘束され、裁判にかけられる様子を描いていきます。
警察や検察の主張は、カンブレが煽るような歌を歌ったから村の清掃員が自殺をしたんだ、という何の関連性も証拠もないもので、誰が何を言った言わないだけで、被告人が何日も拘留され、法の前で裁かれるというホラーショーになっています。
いわゆる典型的なボリウッド映画とは違ってミュージカルやCG一切なしのシリアスなリアリティー路線の社会派ドラマです。
綺麗な家に住む裕福な美男美女ばかりが登場する、そんじょそこらのインド映画とは違って、貧しい市民が登場人物の大半を占めます。
そういう意味ではインドの現実や社会を覗くことのできる、まともな映画だなぁ、といった印象を受けました。お馬鹿ミュージカルではなく、こういうインド映画がほとんど海外に出回らないのが残念でなりません。
終始、登場人物から離れて遠めから撮影しているので若干分かりにくさがあり、また無駄なシーンが少なくないです。
興奮する展開もないし、感動のフィナーレが待っているわけでもなく、淡々とやる気のない裁判シーンが続いていくだけです。
退屈といえば退屈なんだけど、インドのぶっ飛んだ環境や現実はシリアスを通り越して笑えてくるレベルで、裁判のいい加減さを見ただけでどれだけ文明が発達していないのかが伝わってきます。
裁判で駐車違反をした被告人の集団に「罪を認めますか? 認めるなら罰金10ルピーで全員釈放」みたいなノリで判事のその場のさじ加減で、簡単に判決が出てしまう下りなんかはカルチャーショックでした。
証人への質問ではこんなやり取りがあります。
「名前は?」
「Aです」
「年齢は?」
「分かりません」
「だいたいの年齢は?」
「30歳ぐらいです」
そもそも貧しいから出生届なんかも出してないだろうし、教育を受けてきてないから自分の年齢すら分からないという衝撃。また、それが普通といった感じで裁判が何事もなく続いていく様子が素敵です。
インドは言語も多いので、何語で裁判するのかというのも重要になりそうですね。劇中ではなぜか弁護士、裁判官、検察は訛りのひどい英語で喋っていました。
インドって裁判は基本英語でやるんですかね?でもそれって怖いですよね。それぞれの英語の理解力もかなり怪しいもんだし、もし判事が英語が苦手な人だったらどうなるんだろう。あのおばちゃん検察官の英語なんて誰が理解できるんだよってレベルだったし。
そういえば僕の友達のアメリカ人がメキシコに行ったときに不当に逮捕されて、何の容疑かも分からないまま豚箱にぶち込まれ、通訳もなしにスペイン語で裁判にかけられたことがありました。
結局、彼は容疑も判決の内容もよく分からないまま、1週間ぐらい拘留された後に無事釈放されたそうですが、言葉が分からない中での裁判って恐怖でしかないですよね。
他にもイスラエルで理由もなく入国拒否を食らって、空港の留置所にぶちこまれた友達もいます。留置所ではトルコ人がやたら話しかけてきたって。もちろん何を言っているのかは分からないんだけど。
世界各国で色々と不当な「裁き」があるだろうけど、その中でもこの映画を見る限り、インドは飛びぬけてやばそうですねえ。意味不明すぎて、理解できない箇所もひとつやふたつではなかったです。
ラストシーンで炎を前に判事の家族が歌って踊るシーンがあるんですが、その盛り上がりっぷりと歌詞が最高でした。
揺らして、足を揺らして
おでこにビンディー
おでこにビンディー
あっちへ行って邪魔しないで
おでこにビンディー
おでこにビンディー
邪魔しないでお父さんに言いつけるわよ
ビンディーとはインド人女性が額につける「赤いポチ」のことだそうです。だとしてもなんでお父さんに言いつけられちゃうんだろう。誰か教えてください。
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