スタジオジブリには珍しいリアリティー路線の戦争映画であり、いまだ色あせない不朽の名作。いい映画なのに悲しすぎるから、あまり何度も見たくない作品です。75点(100点満点)
火垂るの墓のあらすじ
1945年(昭和20年)9月21日、清太は省線三ノ宮駅構内で衰弱死した。清太の所持品は錆びたドロップ缶。その中には妹・節子の小さな骨片が入っていた。
太平洋戦争末期、兵庫県武庫郡御影町に住んでいた4歳の節子とその兄である14歳の清太は6月5日の神戸大空襲で母も家も失い、父の従兄弟の嫁で今は未亡人である兵庫県西宮市の親戚の家に身を寄せることになる。
最初のうちは順調だった共同生活も戦争が進むにつれて、二人を邪魔扱いする説教くさい叔母との諍いが絶えなくなっていった。居心地が悪くなった清太は節子を連れて家を出ることを決心し、近くの満池谷町の貯水池のほとりにある防空壕の中で暮らし始めるが、配給は途切れがちになり、情報や近所付き合いもないために思うように食料が得られず、節子は徐々に栄養失調で弱っていった。
ある日、川辺で倒れている節子を発見した清太は、病院に連れていくも医者に「滋養を付けるしかない」と言われたため、銀行から貯金を下ろして食料の調達に走る最中に日本が降伏して戦争は終わったことを知った。清太は日本が敗戦し、父の所属する連合艦隊も壊滅したと聞かされショックを受ける。
節子に食べ物を食べさせるものの既に手遅れで、節子は終戦から7日後の8月22日に短い生涯を閉じた。節子を荼毘に付した後、清太は防空壕を去る。
wikipediaより
火垂るの墓は実話ベース
小説家、野坂昭如の実体験ベースの短編小説を原作とした、実話だとつい興奮して涙が出てしまう実話馬鹿にはたまらないアニメ映画です。「となりのトトロ」と二本立て上映された作品でもあります。監督は「かぐや姫の物語」の高畑勲。
僕は実話馬鹿にはなりたくないのでその辺はどうでもいいんですが、ストーリーにリアリティーがあることには大歓迎です。
戦争映画をアニメで描く、という発想もいまだに斬新ですよね。それも兵士たちがバチバチ撃ち合う戦争映画じゃなくて、戦争中の一般市民の生活をつづっている珍しい映画です。
野坂昭如は戦時中に幼い妹を亡くしたこともあって、その体験が作品に強く影響しているようです。いわゆる戦争中の兄妹愛を描いた家族ドラマで、物語は誠実で妹思いの清太と純粋で健気な節子の愛情溢れるやり取りに終始します。
母親が空襲で命を落し、家族がいなくなった二人は親戚の家に世話になるものの、肩身が狭くなって防空壕で暮らしだすというやるせないエピソードの連続です。
清太がいい子すぎるのが若干気になりますが、ほかの登場人物たちの、ほどよい優しさと冷たさがいいんですよね。
みんな自分が生きることで精一杯で、他人もそう変わらない境遇にいるだけに人に優しくするのにも冷たくするのにもどこか戸惑いが感じられます。あのバランスが絶妙でした。
それにしてもわずか数十ページの短編小説を、完成度の高い一本の長編映画に仕上げるのはすごいですね。1988年公開の映画なのに今見ても全然古く感じられません。
実写映画だと映像やその時代の演出がもろに反映されるので古臭さを感じやすいけれど、アニメはその点、色あせにくい利点がありますね。それに加えて当時のジブリの技術がかなり進んでいた、ということもあるでしょう。
同時期に公開されているディズニーアニメと比べても、全然クオリティーが違いますもんね。しかし逆にジブリはあの時代から今にかけてほとんど成長していないともいえそうです。
「となりのトトロ」にしろ「風の谷のナウシカ」にしろ「天空の城ラピュタ」にしろ、ジブリの名作ってほとんどが80年代に製作されたものなんですよね。
手書きのアニメにこだわるのはいいとしても、それと平行して時代に合わせたアニメーションを作っていけばいいのにって思うんですけど、そこを決して譲ろうとしないのが、いかにも日本の頑固職人集団っていう感じがします。果たして今後ジブリから「火垂るの墓」のような名作を超えるものが出てくるのでしょうか。
火垂るの墓は節子の死因とか都市伝説がうざい
原作馬鹿と同じぐらい日本の地方を中心に多く生息するのが深読み馬鹿です。この種族は、なんでもかんでも素直にストレートにものごとを解釈することを避け、本音はいつも違うところにあると無責任な予想を繰り広げる連中たちです。
そして一度自分のセオリーに手ごたえを感じると、あかたもそれが正しい答えであるかのように意見を押し付けてくるので、僕は日々困り果てています。
あなたの周りにもいませんか。なんでもかんでも陰謀だとか、イルミナティーの仕業だとかいう人。そういう輩がこの映画を見ると、節子が死んだのは栄養失調ではなく、清太は本当はプライドが高いわがままな少年だとか、政治的な意味合いでTV放送はもうされないとか言い出します。
節子の死因なんて別に栄養失調でいいじゃんって思いますけどね、医者が診断したときそう言ってたんだし。フィクションの世界の中のセリフも信用できないって結構すごいことで、そういう人たちは現実社会ならなおさら人のいうことを聞き入れないはずです。
異性に交際を断られても、「本当は私のことを好きだけど、まだそれに気づいていないんだ」とか解釈しそうで怖いですね。
さて、ラストシーンはちょっとシュールで、清太と節子が手をつないで、現代の都会の夜景を見上げて幕を閉じます。あれは幽霊となった二人が成仏することなく現代まで、この世をさ迷っているという意味なんでしょうか。
それとも戦争が終わり、平和になって成長を遂げた日本を映し出し、せめてものハッピーエンドにしたかったのでしょうか。
ああいっけねぇ、ついつい深読みするところだった。これ以上考えると深読み馬鹿になるのでやめておきます。
コメント
戦争を扱ったアニメ映画と言えば去年話題になった「この世界の片隅に」の批評を是非お願いします!
「千と千尋の神隠し」の列車が海の上を走るシーンで、節子みたいな人影が見えるという話は割とよく知られてますよね。これも映画男さんからしてみれば深読みになってしまうのかも知れませんね。まぁどうでもいい話ですが。
これは毎夏恒例で観ていたような気がしますね。母親が空襲で焼かれて、その姿が出たシーンは忘れられません。初めて観たのがガキの頃だったので余計にショックでした。だからこそ、この映画は子供みんなに見てほしいと思いますね。
戦中、戦後の話しをする人もいなくなりました。このアニメは是非永遠に、残しておいてもらいたい。
『火垂るの墓』ではないでしょうか?
ご指摘ありがとうございます。訂正しました。
映画はすごく良かったですね。
あと、評論もいいっすね。
様々な馬鹿をきちんと取り上げてる。
流石やなぁ。
俺も、深読み馬鹿ですが、映画男さんの
分析は図星で鋭い。
勉強になるなー。