韓国史上最初の連続殺人をモチーフにした、怖くて、リアルで、面白い作品。犯人を追いつめる警察と警察を翻弄する犯人の世紀の決戦を描いた、韓国映画を代表する一本です。68点(100点満点)
殺人の追憶のあらすじ
1986年10月23日、農村で若い女性の変死体が発見される。地元の刑事パク(ソン・ガンホ)は地道な取り調べを始めるが、現場は大勢の見物人で荒らされ、なかなか証拠がつかめない。やがて、第ニの事件が起きてしまう。
シネマトゥデイより
殺人の追憶の感想
「ほえる犬は噛まない」、「グエムル -漢江の怪物-」、「母なる証明」、「パラサイト半地下の家族」、「スノーピアサー」、「オクジャ」、「Tokyo!」などで知られるポン・ジュノ監督によるサイコスリラー。「カエル少年失踪殺人事件」、「あいつの声」と並ぶ韓国三大未解決事件を基にした犯人追跡映画です。
10人の女性が殺害された華城連続殺人事件を題材にしていて、1980年後半から90年初期当時の韓国の情勢がよく分かる話になっています。
特に軍事政権化ということもあって警察の乱暴さが見ていられないレベルで、基本的に一般市民を殴ることは問題なし、とされている状況です。警察署のトイレには「拷問禁止」といった笑えない張り紙がされていたり、ところどころに時代性を感じさせます。
警察はとにかく片っ端から容疑者を拷問していきます。事件の早期解決を目指し、殴る蹴るの暴行を加え、紐でつるし、嘘の自白を迫るものの、いつになっても本当の犯人を特定することはできません。実際には拷問で亡くなった人もいたようですね。
また、文化として根付いているのか行き詰った警察が霊媒師に頼ったりして、事件現場の土と墨を混ぜて白い紙の上にばら撒けば犯人の顔が浮かんでくるとか言っていました。ちなみに「カエル少年失踪殺人事件」にも霊媒師が登場しています。
そんな調子で捜査が行われていたぐらいだから未解決事件というより警察の不祥事といったほうがいいです。物語は手段を選ばない警察と彼らをあざ笑う精神異常者の対決をスリルとサスペンスを織り交ぜながら、映し出していきます。
ストーリー全体にリアリティーがあり、韓国人俳優たちの迫真の演技がさらにそれを倍増させていて、話に引き込まれます。特に刑事パクを演じたソン・ガンホのやくざオーラが迫力十分で、サラリーマン時代との顔つきが全然違うのがすごかったです。
上映時間は2時間を越え、内容がえぐいこともあり、最後まで見たら結構疲れます。そのせいか2度、3度見ても楽しめる映画かというと、そうではないですね。
僕は年月を置いて複数回見ましたが、一度目の興奮と緊張感を二度目以降に保つことはできませんでした。スリラーがそもそも何度も見るタイプの映画じゃないってこともあるのかもしれませんが。
いずれにしろ韓国を代表するサイコスリラーであることは間違いないでしょう。まだ、見ていない人はぜひ一度は見るべき映画です。
それにしても同じ村で10人も殺されているのに、こうしている今も犯人はどこかにいるっていうのが信じられません。それこそこの映画の最大の恐怖ですね。
映画の中では若い女性ばかりが狙われたことになっていますが、実際は50代から70代の女性も殺されているようです。それもただ殺すだけでなく、被害者の陰部にスプーンやボールペンを入れたり、といった無茶苦茶なことをしています。世の中にはいるんですねぇ、本当に狂った奴が。
コメント
ほんと、細部がリアルで演技が迫真で、画が美しくて、引きこまれて見ました。が、ラストは??でした。
物証がない・アメリカから鑑定結果も届いてない時点で、刑事の心証だけで容疑者に暴行するってのは…。しかも手錠かけたまんま放任していいの?
しかし、製作が2003年で、2019年にはモデルとなった実際の事件の真犯人が判明していますから、いま観てスリラー的感興が薄いのは仕方ないとして、ラストの容疑者と実際の犯人の容貌が似ていることに驚きました。製作当時、犯人像は全然不明だったはずですが…監督のカンなんでしょうか。
私は実際の事件のころソウルに住んでいたので、当時の様子を思い出して、画にも惹かれました。警察のトイレの「拷問禁止」の張り紙は、原文直訳だと「殴ったら殺す」、つまり「容疑者を殴ったらオマエを死ぬ目に逢わせてやる」の意で、この標語自体ハチャメチャな暴力です。
それにしても、ファソン(華城)連続殺人事件の真犯人が、別の殺人で既に服役中の囚人だった+ファソンの10件の殺人は時効だから罪に問えないという、映画よりドラマより奇想天外な現実が露呈した今、映画・ドラマは何をどう創作するべきなんでしょうか…。
これ、事件の真犯人判明してたんですね。知りませんでした。