ボケ老人による復讐サスペンス劇。視聴者の目を欺き、いい意味で期待を裏切り、意表をつく展開が多々あり、そこそこ楽しめる作品。64点(100点満点)
手紙は憶えているのあらすじ
90歳のゼヴ(クリストファー・プラマー)は、妻を亡くしたことさえ忘れるほど物忘れが進んでいた。ある日、彼に友人マックス(マーティン・ランドー)が1通の手紙を託し、家族を殺したドイツ人兵士への復讐(ふくしゅう)を依頼する。自分と同じくアウシュビッツ収容所の生き残りで体が不自由な友人のために、ゼヴは単身でリベンジを果たそうとするが……。
シネマトゥディより
手紙は憶えているの感想
「白い沈黙」のアトム・エゴヤン監督の作品です。第二次世界大戦中に家族を皆殺しにされたユダヤ人のお爺ちゃんが、元ナチスのメンバーを探し当て復讐を試みる物語で、ストーリーは良く出来ています。
主人公の老人ゼヴは、戦時中アルシュビッツ収容所で看守だったナチス親衛隊の男オト・ヴァリッシュが現在ルディー・コラーンダーという別名を使って北米で生活していることを突き止めます。
ところが北米にはルディー・コラーンダーという同姓同名の男が4名いて、そのうちの誰がゼヴの家族を殺した犯人かは分かりません。ゼヴは仕方なく列車やバスを乗り継いで一人一人に会いに行き、銃で脅して直接本人の口から真相を聞き出そうといった強行手段に出る、というのが物語りのあらすじです。
ポイントは、主人公のゼヴが90歳という高齢であり、認知症を患っていることです。そのため彼は何かある度に自分がどこで何をしているのかを忘れてしまうといった危なっかしい状況に陥ります。
そんな彼に、失いかけた記憶と旅の目的を一瞬にして思い出させるのが友達からの一通の手紙です。そこにはやるべきことが詳細につづってあって、それを読むとゼヴは自分が果たすべき復讐を再認識するのです。
この映画もまた、よくある都合のいい「記憶障害」を利用した「実はああだった、こうだった」という無理なオチを用意しているタイプの作品です。
それでもそれなりに楽しめるのは、ラストのサプライズだけに頼っているわけでなく、そこにたどりつくまでの過程でも先の読めない展開を作りながら、小さなサプライズを小出しにしているからでしょう。突っ込みどころは少なくないですが、序盤から終盤にかけて十分に見ごたえがあったので、最後のオチがどうとかはもはや作品の評価には関係なかったですね。
「手紙は憶えている」のラストのオチ
北米に4人いると言われているルディー・コラーンダーを捜し求めてゼヴは、片っ端から同姓同名の男の家を訪ねていきます。ゼヴが高齢だからか、住人はほとんど警戒することもなく、彼を家の中に招きます。一人目の男はしかし戦時中アフリカにいたことが発覚し、人違いであることが分かります。
二人目の男は、ナチス親衛隊どころか同性愛者として自身もアルシュビッツに収容されていた捕虜で、ゼヴは同じ苦しみを経験した者同士抱き合って涙を流します。
三人目の男は数ヶ月前に亡くなったばかりで、ゼヴが家を訪ねると息子が応対してくれます。息子が語る父親の思い出話から、男はナチス軍の料理人だったことが分かり、やっぱり人違いでした。しかしここでゼヴの腕に刻まれた捕虜の番号を見て、ゼヴがユダヤ人であることがバレてしまい、息子が逆上。ゼヴは仕方なく彼を殺してしまいます。
最後の男は、ゼヴの顔を覚えていて、こいつこそが張本人だと確信しますが、彼はオト・ヴァリッシュではなく、クニバート・スタームという別人で、ゼヴこそがオト・ヴァリッシュだと暴露します。そうなんです。自分のことをユダヤ人だとばかり思っていたゼヴこそが実は元ナチスの親衛隊で、腕に刻まれたタトゥーは自らを被害者として偽るためのものだったのです。
じゃあ今までの復讐ってなんだったの、という話になるんですが、実はゼヴは友人のマックスに操られていたというオチなのです。家族を殺されたのはゼヴではなく、本当はマックスだったと。そして四人目の男もゼヴの共犯者だから、マックスはゼヴを使って彼を殺させたということになりますね。
ただ、ゼヴもゼヴで自分がユダヤ人だか、ナチスだか分からなくなるほどの重度の認知症なんだったら、一人で長距離の移動なんて絶対にできないでしょ。
それにナチスって巨大な組織だから、二人殺せば復讐達成っていう話でもないと思いますけどね。そんなに個人的な強い恨みがあるならマックスが自分の手でゼヴを殺せっつーの。
コメント
これは最後まで落ち着いて鑑賞することができました。
こういう落ち着きっての大事ですよね。
一安心。
下手な映画は、あれやこれやてんこ盛りしてくれるんですが、どれもこれも板についてないって言うんですか・・観ててヒヤヒヤするんですよね。
それにしても認知症でねぇ・・ちょっと無理ありますね・・確かに。
PS:ところで「クリエ」のリンクが切れてるみたいですよ。
ありがとうございます。リンク訂正しました。
ナチ戦犯もののついでに、だいぶ前に観たミュンヘンを見直したんですがイマイチでした。
次に偶然U-NEXTで飛び出してきた「誰でもない女」という妙なタイトルのドイツ映画を観ました。
これが当たりでした、なかなか良かったです。
ナチの人口増加計画レーベンスボルンに翻弄される一人の女性を追ってます。
実話ベースといことで、リアリティありました。また、舞台はほぼノルウェイなんですが絵が綺麗。
僕は逆にミュンヘン好きなんですよ。あの事件について本も読んでたので、なんかすごい面白かった記憶があります。「誰でもない女」も気になりますね。
いつの日か、ミュンヘンも誰でもない女も、文句お待ちしてますよ!^^