火山の側で暮らすマヤ人の家族の運命をつづった、ドキュメンタリータッチの人間ドラマ。セリフのほとんどがマヤ語で、TVでも見たこともないような彼らの暮らしや風習が覗ける貴重な作品。55点(100点満点)
火の山のマリアのあらすじ
17歳のマヤ人マリア(マリア・メルセデス・コロイ)は、グアテマラの活火山のそばで農業に従事する父母と一緒に生活をしていた。困窮にあえぐ一家はその解決策として、地主イグナシオ(フスト・ロレンツォ)にマリアを嫁に出そうとする。だが、マリアの心はコーヒー農園で働くペペ(マーヴィン・コロイ)にあり、彼の子供を身ごもってしまう。
シネマトゥディより
火の山のマリアの感想
ハイロ・ブスタマンテ監督によるベルリン国際映画祭で「新しい視点賞」を受賞したグアテマラ映画です。火山の近くで暮らす素朴なマヤ人家族たちを題材にしたリアリティー溢れる内容で、民族の文化と近代社会の狭間で生きる人たちの苦悩と葛藤と現実を描いています。
主人公は両親と一緒に暮らす17歳のマリア。生活臭漂うラフな日常の感じでは分かりにくいですが、おめかしするとかなりのエキゾチック美人になる少女です。
マリアの家族は山で作物を育てたり、豚を飼育したりして細々と生活しています。一見、自由きままに生活しているように見える彼らも、実は住んでいる土地は借地で、土地の所有者に場所代を持っていかれる現実があり、その光景はごく普通の経済社会と変わらなかったりします。
そこで生活する人々の娯楽といえば吐くまでお酒を飲むことぐらい、という点においても、社会の縮図のようです。
美人なマリアに目を付けた地主はある日、彼女との結婚を両親に迫ります。マリアには自分の望みを発言する機会もろくに与えられぬまま、結婚の話はまとまってしまいます。
一方でマリアはアメリカ行きを夢見る青年ぺぺに気持ちを寄せ、処女を捧げてしまいます。あろうことかマリアは妊娠してしまい、やがてそのことが地主の男の耳に入る、というのが話の流れです。
マリアが妊娠したことを知った母親が娘に迷わず「中絶しなさい」と言ったのには衝撃を受けました。
マヤ人が自然に反する中絶という結論にいとも簡単に行き着くところが意外です。そもそも中絶する文化が彼らの中にあったんだ、というのが驚きでしたね。あの辺はフィクションなのか、それとも近代社会の影響なのかどっちなんでしょうか。
ただでさえラテンアメリカ諸国では妊娠したら何歳であろうが産む、というのが一般的です。カトリックの影響が強いのがその主な理由ですが、非カトリックの原住民にしても、中絶は信仰に背くことなるようなイメージがあります。
マリアの家族は火山にお祈りを掲げたり、蛇に強い畏怖を感じたり、おかしな迷信を信じていたりと、様々な状況で信仰心を見せるわりには、ちょくちょく暴言を吐いたり、乱暴なことをしでかすので、どれくらい原住民の文化に傾倒しているのか、ちょっとよく分からなかったです。
結局、マリアは中絶を断念し、子供を生むことにするんですが、そこから物語は急展開を見せます。ラストのオチは説得力に欠けるし、ちょっと無理があるなあ、という感じもしたので腑に落ちなかったです。
それよりなにより、毒蛇にかまれたらマヤの人たちでもすぐに病院に直行するっていう下りが笑えましたね。普段は伝統だ、儀式だ、火山の神様だって言っている人たちが、ああいう局面では迷いもせず近代医学に頼るっていうね。
身近な霊媒師よりも、顔も知らないグアテマラ人医師たちに信頼を寄せている証拠じゃないですか。それだったらもっとスペイン語勉強しようよって話ですね。
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