実際にあった事件を基にした誘拐ビジネスで生計を立てる狂った家族を描いた犯罪ドラマ。そこそこリアリティーはあるものの、怖くしたいのか、ブラックコメディーにしたいのか良く分からない中途半端な映画。41点(100点満点)
エル・クランのあらすじ
1983年のアルゼンチン、裕福なプッチオ一家は近所の評判もよく、幸せに生活していた。ある日、二男が通う学校の生徒が誘拐され消息を絶つ。それ以来、一家の周辺で金持ちだけがターゲットにされる身代金誘拐事件が続発し、近所の住民たちは不安を募らせる。一方、いつも通りの生活を送るプッチオ家では、父アルキメデス(ギレルモ・フランセーヤ)が鍵のかけられた部屋に食事を運ぶと……。
シネマトゥディより
エル・クランの感想
ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した作品。アルゼンチンが軍事政権から民主政に移った時代に家族ぐるみで企業家たちを誘拐し、殺害していった犯罪一家の話です。
極右組織や諜報機関のメンバーだったアルキメデス・プッチオ一は政治体制が民主主義になったことをきっかけに仕事にあぶれ、逆に警察や軍のコネを駆使しながら誘拐ビジネスで生計を立てようと企てます。犯行の際には息子たちにまで協力を仰ぎ、自宅に人質を連れ込むなど家族全体を巻き込んでいきます。
身代金を受け取っても証拠隠滅のためなら人質を容赦なく殺害していくやり方にやがて息子たちは反発し、警察は彼らの犯行を疑い始める、というのがあらすじです。
アルゼンチンではかなりヒットした映画だそうですが、海外、特に日本ではそれほど受けないでしょう。実在した凶悪犯罪者を基にしているだけあってアルゼンチン人なら事件について知っているかまたは聞いたことがある人も多いはずです。そういう人が見たら他人事ではないリアリティーを感じて、冷や汗が出る恐ろしい映画なのかもしれません。
一方でアルゼンチンに住んでいない人にとっては遠くの国で起きている出来事にすぎず、ただちょっと気味が悪くて怖いかなぐらいのものでした。「あさま山荘事件」の映画を外国人に見せても反応が薄いのと同じです。
やはり海外の視聴者も一緒に巻き込むにはスピーディーなテンポと興奮しっぱなしの緊張感と、スタイリッシュな映像や音楽も必要になってきますね。この作品にはそれがなかったです。特にアルゼンチン映画はポップじゃないから、とっつきにくいですよね。
特にBGMの使い方が下手でしたねえ。ぜんぜん映像と音楽がマッチしてなかったです。アルゼンチンの映画なのに英語の歌を流しているし、なによりタイミングや選曲のセンスが悪かったですね。
ストーリーは登場人物の一連の犯罪の手口から、逮捕、裁判までを描いていますが、捕まってからのアルキメデス・プッチオ一を始めとする、家族の言い訳がいかにもラテン系の人たちがつきそうな嘘で笑えます。よくまあそんなことが言えたもんだなあ、ということを平気で言うからね。
最後はこの手に映画によくあるテロップを使っての説明で終わっていきます。「Aはその後、刑務所にxx年入りました。そんでもってxx歳のときに死にましたとさ」的な投げやりな終わり方です。
いつも思うんですが、僕はむしろ逮捕された後の転落人生のほうが見たいんですけどね。犯罪で生計を立てた人間が逮捕され、刑務所に入り、出所してからどのようなわびしい人生を送るのかをちゃんと描いてくれないと、教訓にならないし、なにより見ていてすっきりしないんですよ。
ちなみにアルキメデス・プッチオ一は終身刑を受けながら23年ほど務めて出所したようで、その後弁護士になって若い女と結婚までしたそうです。凶悪犯罪者が弁護士って皮肉なもんですね。
それにしても中南米の映画で国際的に話題になる作品っていつも軍事政権ものですよね。東欧諸国が永遠とナチスドイツを描くのと似ています。できればもっと現代の話が見たいんですが、現代って面白いネタがないんですかね。
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