介護の現場や病人を抱える家族の実態を描いた社会に訴えかける作品。まるで主人公を隠しカメラで追っているかのような臨場感のある演出とリアルな演技による物語は一見の価値ありです。68点(100点満点)
或る終焉のあらすじ
息子ダンの死を機に、別れた妻と娘とも顔を合わせなくなったデヴィッド(ティム・ロス)。終末期の患者をケアする看護師として働く彼は、患者の在宅看護とエクササイズに没頭するだけの日々を送っていた。
患者たちに必要とされ、デヴィッド自身も彼らとの濃密な関係を率先して育む中、末期ガンに苦しむマーサ(ロビン・バートレット)から、頼みを聞いてほしいといわれる。それは彼に安楽死を手伝ってもらいたいというものだった。デヴィッドは、ある秘めた自身の過去と患者への思いの間で激しく葛藤する。
シネマトゥディより
或る終焉のあらすじの感想
「父の秘密」、「母という名の女」、「ニューオーダー」でお馴染みのメキシコの新鋭ミシェル・フランコ監督による、心優しい看護師の日常を描いたヒューマンドラマ。メキシコとフランス製作ですが、全編英語です。
セリフを極力抑えた、独特な手法で物語が進んでいき、相変わらず何が起こるのか予想が付かない展開と独特の雰囲気をかもしています。撮り方が独特だからか、一歩下がった地点から登場人物の行動を覗いているような感覚にさせられます。
カメラは淡々と主人公デヴィッド(ティム・ロス)の生活を追いかけていきます。デヴィッドは死を目前にした末期患者ばかりのケアを進んでやり、それこそ自分の時間の全てを仕事に捧げます。献身的な仕事ぶりからデヴィッドはすぐに患者から気に入られ、絶大な信頼を得ます。
患者が建築家だと知ったら本屋に行き建築関連の本を買いあさり、友情を深める努力をします。患者が泣き出せば家族のように抱きしめてあげたり、TVを見ているときにも必要ならばずっと手を握ってあげたりもします。
ところがそんな彼の行動を患者の家族は奇妙に思い、セクハラだと勘違いして彼を訴えてしまいます。看護を第三者に任せっぱなしの家族に限ってデヴィッドの優しさが理解できないのです。
職を失ったデヴィッドはまた新しい患者を探し求めてさまよいます。そんなときに出会った患者が末期がんを患っている高齢の女性で、化学療法を続けたくない彼女はデヴィッドに安楽死の手伝いを頼むのでした、、、、
ストーリーのおおまかな流れは以上です。セリフが少ないだけあって、少ないセリフの中に多くの意味が込められている気配があり、この映画もまた様々な解釈が出来そうです。
「父の秘密」はものすごいリアリティーから来る恐怖があったんですが、本作では恐怖はほとんどなく、リアリティーが見所の大部分を占めています。特に患者をケアするシーンに力を入れていて、弱った患者を抱き起こすシーンとか、お風呂に入れてあげるシーンとか、下の世話をするシーンなどの描写がかなり細かいです。
しかし実際仕事で看護や介護をしている人からすれば、あんな奴いねえよっていう意見が出てくる可能性もありますね。それぐらいデヴィッドが患者に献身的すぎて、看護師の見本のような男だからです。ぜひそっち系のお仕事をされている人がいたら感想を聞かせてください。
ラストシーンの解釈
この映画はラストシーンについてどのような解釈ができるのかを意見交換するのも楽しみ方の一つですね。果たしてデヴィッドは自ら道路に飛び込んだのか。それともただの事故だったのか。
よく見ると、歩行者用の信号は赤のままでしたね。デヴィッドは信号に気づかないほど、気をとられていたのでしょうか。それとも、知っていたうえであえて信号を無視したのでしょうか。車が来るのをちらっと確認したようが仕草もありましたね。
患者たちが苦しむ姿を散々見てきたうえ、世の中に理解されず、社会の理不尽さに嫌というほどつき合わされてきた彼はもう生きる希望を失ったのでしょうか。
息子を失い、家族と疎遠になった彼は命について、人間の尊厳について日々葛藤に苦しんでるようでもありましたね。そんな彼が車に轢かれた後、多くの車がただ行き過ぎるだけで手を差し伸べる人が一人もいなかったのがなんとも皮肉で悲しかったです。
コメント
見事でした。
もしかして、メキシコと日本は似ているのかも。
監督の言わんとするところが、まさに今の日本にドンピシャ。
ラストシーンの解釈、なるほどそういう風に考えるんですね。参考になりました。
いあぁ名作は余韻が素敵!
ラストの解釈は色々できそうですけどね。